別に頻繁にってわけじゃないけど、
旦那は時々、思い出したようにおれさまを晩酌に誘う。


普通の体ではないおれさまにとって、酒は水と同等だ。
飲むよりも寧ろ、消毒として使用する方が多い。


いつだったか。
それが詰まらなかったのか「お主は酔わぬのか」と聞いてきたことがあった。

そしておれさまは答えた「少し強い毒になら酔うよ」と。
実際、毒にも耐性はあったが
強力なものであれば、体に周り、思考を鈍らせ身体能力を低下させた。酒に酔うのと同じようなものである。
しかし問題もあって、
飲むことによって蓄積された毒は一定量を越えると、体外へ出ようと体面に集まり
鬱血のようなものができる。
それはやがて皮膚を破り、膿となって出て行くのだ。視覚的にも感覚的にもあまり好ましくはなかった。

「毒など飲んで、死なぬのか」少し間を置いてそんなことを聞くから、僅か笑いながら「まさか、」と言った。

「ならば持って来い。共に酔いたいのだ」
主人のささやかな願いに応えるべく、おれさまはその夜には毒の調合を終えていた。

「佐助、居るのであろう。入れ」と天井に向かって言葉を放つ旦那の勘は野生動物よりも凄いと思うと同時に、忍びとして酷く落ち込む。


降りて直ぐに捕まったおれさまはまた忍びとして落ち込んだ。

「旦那、嫌だよ…やめて」と声を潰すおれさま。背中にのし掛かる主人は項に小さく唇を落とした。


「大丈夫だ、」そう囁く声は、はっきり言うと嬉々とした様子で
ほんと、質が悪いなあと思う。

「駄目だって…毒なんだから」と言いながら旦那の体を押し返すが、びくりともしない。なにこの馬鹿力…
今にも皮膚を破り、顔を出そうとしている膿は
正真正銘毒である。
少なくとも体にはよろしくない。

間近にある端正な唇が「構わん」という言葉を紡ぎ出して
静かに手の甲に噛みついた。

歯先が皮膚に負荷をかけ、真下の毒を誘い出す
膿がゆっくりと溢れた。

「いっ…旦那、やめて」

「お主の肉は甘いな」人の話なんて全く聞いていない主人は
おれさまの肉体が砂糖か何かでできていると勘違いしているらしい
ほんと、お馬鹿。

息が詰まる「…っあ、く」
痛覚が麻痺しているおれさまの体は
無理矢理開かれた傷の刺激を
ちりちりと熱い快楽と思い込む
脳味噌が湯立ちそうだった。

「ひっ、…うあ、やっ」
歯が強く当てられる度に肩がびくびくとなり
旦那はその度に嬉しそうな顔をした。

目を細めた主人「安心しろ、佐助。お主を喰うのはこの俺だ」
何に対しての安心なのかは判らないが
嗚呼、そういうことだったのか。

おれさまはいつだって旦那に殺されたかった

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