主文
□午後8時46分の出来事
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「何だ、これ?」
自分の携帯電話に見慣れない物がついている。所謂ストラップだ。
何のへんてつも無い普通のストラップだがここまで不思議がるのはこれに全くと言って良い程見覚えが無いからだ。
つい先刻風呂から上がったばかりだが入浴する前にはこれは無かった筈だ。
それにこの家には自分一人しかいない。
そもそもどんなに記憶を辿っていっても自分はこんなストラップは買って無いし、貰ってもいない筈だ。
よくそれを見ると青色でセンスが良いと言っても良いくらいのものだ。貰って悪い気はしない。
しかしサンタクロースからのプレゼントには時期外れではないか。
その時部屋の奥からカタンと物音がした。
こんなに灯りがついているのに泥棒とは可笑しくないか。そもそも泥棒はものを盗んでいくのではないか。
プレゼントをくれる泥棒なんて聞いたことが無いぞ。
そう思いながらそっと部屋の奥を覗くとそこに居たのは泥棒でもサンタクロースでもなく、弟の春だった。
「何だ春か」
そういえば合鍵を渡していたのをすっかり忘れていた。
何にしても泥棒と鉢合わせするのではなくて良かった。
「呼び鈴鳴らしても出ないから勝手に入っちゃった」
無邪気にそう言うものだから何も言い返せない。まあもとより何も言い返そうとも思っていないが。
「ところで春、これは何だ」
先刻首を傾げていた例のストラップのことだ。もう犯人はこいつしかいない。
「兄貴、これ何だと思う?」
質問には答えず、私が言ったこととほとんど同じようなことを言ってから春は自分の携帯を目の前にかざしてきた。
その携帯には緑色で私の携帯についていたものと同じデザインの。
「そういうことか」
「そういうことだよ」
「何も勝手につけることはないんじゃないか」
「だって普通に兄貴に言っても照れて素直につけてくれないだろ?」
もっともだ。
END