主文

□アンバランス
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「好きです。」

志朗君が発した言葉に一瞬固まった。

それでもたいして驚いていないのは、それが初めて発されたものではないからだ。

「僕は男だよ。」

こう言うのは三回目だろうか。

「知ってるよ。」

「歳も、十二も離れてる。」

「それも知ってる。何回目?このやりとり。」

それは僕の台詞だ。

「それでも、好きなんだよ。」

頭を抱えた。
前回も前々回もどうにかはぐらかしてきた。
だけど今回はどうにも駄目そうだ。
その原因はこの状況にある。

今ここは僕の家だ。
基本的に逃げ場は無い。
やはり家に行きたいと言われたからといってほいほい家に上げるんじゃなかった。
子犬のような顔に負けてしまった自分の精神力の弱さを今更後悔した。
あの顔はきっと演技だったんだ。
だって今、目の前に居るどころか壁際まで僕を追い詰めている人物の表情は狼のそれなのだから。

ねえ、と言って思考の海に漂流、もとい現実逃避していた僕の意識を戻して志朗君は続けた。

「俺は高校生が子どもじゃないとは言わないけど」


武藤さんが思うほど子どもではないよ、と


ああ、そんな無邪気そうな笑顔で言わないでくれ。

(その笑顔と行動の差!)




アンバランス




(ぐらぐら揺れて、落ちるまであと少し)






END
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