拍手SS集

□秘密の扉
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 優香はふてくされた顔で、いつもと違う制服を着、笑い声が聞こえる教室の片隅に座っていた。

「なぁーんで、あたしが……──」

 ここは、士官学校……。
 公安からの依頼があり、彼女は生徒になりすまして潜入しているのだ。
 窓の外は悠々とした雲。青い空。

「学校て、こんな所だったっけ……」

 記憶の抜け落ちている優香は、「感情として残っていない」学校のイメージと重ね合わせる。
 楽しそうに笑っている少年達──このクラスでは、優香一人だけが唯一の女子生徒として存在していた。
 やかましい喧噪に、優香は再びため息をついた。











【秘密の扉】












「そんな仏頂面してたら、可愛い顔が台無しだよ」
 つい、と見上げた顔。
 唯一事情を知っているクラス委員の快留(かいる)が微笑んで立っていた。
 明るい茶色の髪に、少したれた目。女受けしそうな泣きぼくろ。
 なんともさっぱりした性格で、優香も少しずつ彼には馴じんでいっていた。
「潜入二日目。いい加減勘弁してくれって感じだ、全く。あたしは今回の事件をとっとと終わらせて本部に帰りたい。仕事が溜まってんだ」
「それはそれは。ご苦労様ですね、軍人様」
 快留は笑いながら、優香の前の席に腰掛けた。
「でもね、突然動き出したらみんなが怪しむでしょ。本部の軍人様が来てるなんて言ったら、エライ騒ぎになっちまうし」
 深いため息と共に、優香は周りを見渡す。
 自分も確かに「大人だ」と胸を張っては言い切れないが……少年達の賑やかな喧噪の中にいると、まだまだガキのたまり場だと思ってしまう。
 再びため息をつくと、優香は窓の外の空を憂鬱そうに眺めた。



 事の発端は、士官学校の教官長が本部に依頼をしに来た事から始まった。

──最近、学校と寄宿舎を繋ぐ中庭周辺にて、怪物が姿を現す。生徒も何人か目撃しており、怯えて学校に来れない者も出てきた。なんとかして原因を究明して欲しい。

 と、いうような内容で。
 士官学校という事だったので、公安に話が流れていったのだが……表立って公安が捜査に乗り出してしまうと、怪物話がより具体化してしまって、怯える生徒が増えそうだと学校側が危惧し出したのだ。
 そう言う訳で、依頼は0小隊へと……──
 優香のなんとも童顔な見目を利用できると考えての事だった。
 最初は優香も嫌だ嫌だ、と断っていたのだが……そんな事を言ってる間にも怪物の目撃例は増加の一途を辿っており……公安の頼み込みによって、仕方なしに了承したのだった。

 期限は、一週間。延びて一週間と弱。

 優香が帰らないのでは、0小隊の仕事も上手く回らなくなってしまう。
 ここはなんとか早めに切り上げたいところなのだが……──



「ひとまず、今日には例の中庭に連れて行ってもらいたいね」
「あれ? ここに来た時に案内したでしょ」
「あれだけじゃ不十ぶ……──」
 ん。
 と、言いかけて……授業開始のチャイムが鳴った。
 優香は顔をしかめる。
「次、なんだっけ?」
「統計学だよ」
「……寝るな、確実に」
 憂鬱そうに突っ伏した優香に、快留は可笑しそうに笑った。





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