拍手SS集

□お伽話
1ページ/1ページ


 光がわずかに射す部屋。
 樹書だらけの埃っぽい空間で、松笆は探し物の手を止めた。
「…ん?」





*お伽話*





 そこには星の歴史や軌跡、軍の設立の経緯を記した難しい本達と並んで、装丁がなんとも愛らしい樹書がちょこんと、あった。
「は〜ん。…誰だ?樹書ならなんでもほうり込んでおけばいいなんて考えてた馬鹿な野郎は」
 松笆は本にかかっていた埃を、ふーっ、と吹いた。
 げほっげほっ…むせながら、改めて表紙を見る。
「…『妖精の国の英雄』?…ははっ、やっぱり子供向けか」
 やや間があり、松笆はその本を破棄しようと窓の近くに置いた。それから資料探しを再開する。
 しかし…どうにもさっきの本が気になって集中できない。……仕方なく、松笆は再び本を手にした。
 話の内容はこうだ。


 妖精の国が、ある日突然力を失い始めた。花も草木も枯れ出し、綺麗だった世界はどんどんくすんでいく。
 そこで、妖精の城で働いていた傭兵が秘かに調査を始めた。
 傭兵は調べていくうちに、諸悪の根源は王だと知る。新しい王だったからだ。
 殺されそうになりながらも、傭兵は前王の娘を救いだし、王を打ち破る。
 そうして傭兵は娘と結ばれ、自らが王となったのだった…−


「めでたしめでたし…か」
 松笆はぱたん、と本を閉じた。まだ少し、埃が舞う。
「…いいな、お前は。ハッピーエンドで」
 オレはなにもかも失っちまったよ…。松笆は小さく、呟いた。
「お上に、逆らったばっかりに…」
 松笆はしばらくそのまま動かなかったが…よっこら、と立ち上がると、もう一度パンパンッと本をはたいた。
「……あいつにやるかぁ」
 ぎらっぎらっ目を輝かせ、「あーりがとー!!」と吠える、樹書大好き娘が松笆の脳裏によぎった。
「……なにもかも失ったわけじゃ…ないか」
 松笆は、うっすら微笑むと、再び本を窓の近くに置いた。
 今度は、誰かにあげる為に……。











松笆さんは常に焦りと、後悔の中に身を置いている人です。
けれど、たまに来る客人(優香達だったり、刑事班の人間だったり)に救われていたりします。



[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ