本編

□愛に死にゆく月
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 月は星に…

 
 永遠-トワ-に寄り添うものならば……










*愛に死にゆく月*










 夜の大通り。その一角にある、大手銀行周辺に人だかりができていた。
 人々の前には「KEEPOUT」と書かれた黄色いテープが引かれており、テープの向こう側は軍服を着た人間と、白衣を着た人間とでひしめいている。

「………おい、コラ」

 現場には、少し悪っぽく、目立つ刑事が一人…顔をしかめてわなわな震えていた。
「っんで、おめーらが目撃者なんだよっ!!」
 優香と飛風は顔を見合わせて「さあ〜…」とハモッた。





「だーかーらー…見回り中の警備班の兄さんが、怪しい男と揉み合ってるのを見ただけだって言っとろーがー」
 腕を組んで、面倒くさそうに優香が言った。
「僕等が駆け付けた時には、彼は足を負傷してて…犯人はいなくなってたんです」
「そーそー」
 刑事は0小隊の二人を睨みながら言った。
「なんで取っ捕まえよーとしなかったんだ…」
「だから、駆け付けた時にはもう…」
「あたしら、あっちの通りにいたからさ。車道挟んでたし」
 外を指差すと、刑事はがっ、と彼女の胸倉を掴んだ。ちっこぃ優香はそのせいで足が石畳から離れる。
「んなもん軍人の魂で飛び越えてきやがれー!!」
「無茶言うなー!!!!」
「樫-カシ-さんっ樫さんっ…大事な目撃者なんだから」
 困った顔で、刑事の後輩が止めに入った。
 大柄で、肌の色も少し黒く、その割には端正な顔をしている彼は、目付きの悪い樫と呼ばれた先輩とは対照的だった。
「…なぁ…木蓮-モクレン-、いっその事こいつら犯人にしちまおうぜ」
「ダメですよっ」
「お前それでも刑事か〜!!」
 吠えた優香を、樫はバシッとどついた。
「うるせぇよ」
「…あのぉ…僕達、また軍に戻らなければいけませんか?」
 恐る恐る尋ねた飛風に、木蓮は苦笑いしながら応えた。
「いえ…また明日ゆっくり聞かせてもらいます。ご帰宅中の所、足止めさせてしまってすみませんでした」
「んだぁ?帰すのか?もっといびってやろーと思ったの…に…っ!」
 優香は樫の足をおもいっきり踏ん付けると、一目散にダッシュした。
「コラァ!!明日覚えてろよー!!」
 逃げて行った優香をのんびり追いながら、飛風も樫達に一礼して去って行く。
 その二人を見送りながら、木蓮は呟いた。
「良かったですね」
「あぁ?何が」
「0小隊に助っ人してもらえる口実ができて」
「……バカ、おめぇ…こんなちっせぇ事件にガキ共の加勢なんかいらねーよ」
 煙草を取り出した樫に、科軍の人間が現場で吸うな!と一喝した。
 また喧嘩をおっ始めそうになった樫を、木蓮は慌てて止めた。




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