降りしきる雨の中、刑事二人は殺人犯を追っていた。
急に降り出した雨の為に、二人ともびしょ濡れだ。
遠くの方では繁華街のネオンがぼんやり浮かんでいる。
暗い路地裏で、やっと、奴(やっこ)さんを追い込む事ができた。
犯人は、行き止まりの壁に立ち尽くしている。
ただただ、立ち尽くしていたのだが……──
急に不気味な無表情で、二人に振り返った。
「おぃ」
刑事の一人、樫が犯人に声をかけた。
「お前さんはここまでだ。妙な気ぃ起こさず、このまま観念しろ」
しかし犯人は、そんな樫の言葉すら無視する様に、真っ直ぐ──なんの躊躇いもなしに、こちらに向かってきた。
隣に立っていた木蓮が、光線銃を取り出す。
それにハッと気付いた樫が「よせ!!」と、叫ぶ前に放たれた光線。見事に犯人の足を撃ち抜いた。
「バカヤロッ、お前洒落になんねっ──」
言いかけた樫の言葉など、まるで聞いていないかの様に……木蓮は動けなくなった犯人に向かって歩き出す。
「木蓮!!」
制止の声も聞かず、木蓮は容赦なく光線を犯人に浴びせた。
ドシュッ
ドシュッ
雨の中、嫌な音がこだます──と、同時に……辺り一帯に、ゴムの焼ける様な、異様な臭いが漂い始めた。
そこで、樫は悟る。
だが、木蓮は止める事なく光線を浴びせ続けていた。
抑揚のない声で、彼は呟く。
「樫さん、『人』ではありません」
ハッと我に返った樫が、再び「よせ!!」と叫ぶと……自分より一回りデカイ木蓮の肩を抱き倒す様にして乱射を制止させた。
たちこめる、ゴムの焼け焦げた臭いと……オイルの臭い──
明らかに、犯人が人間でない事を物語ってはいる。
ジジッ──
電子音と小さく破裂する回路の火花。
樫は、深く呼吸すると……言い聞かせる様に三度、木蓮に言った。
「よせ、もう……『壊れて』動けねぇ」
**沈黙のアンドロイド**
寝ぼけた頭をがしがし掻きながら、樫は閑散とした食堂で大欠伸をしていた。
アンドロイドの引き渡しから、今回の事件のデータのまとめ……殺された男の素性の調べ直し。
一度事件が起これば、休むヒマなく──眠る事さえ惜しんで働かざるをえない。
「まぁーったく、刑事ってのはいい商売だよな」
再び欠伸をすると、樫はこの時間には珍しい軍人を見つけた。
「よぉ」
声をかけられて、黒髪のツインテールが揺れた。