番外
□彼女の光
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真っ暗な、場所。
優香は一人、立ち尽くしていた。
ここは、どこだろう?…と考える。
見当がつかない。
一つの扉を見付ける。
開けてみる。
真向かいに並べられたデスク。そこから少し離れた所に大きめのデスク。小さな鏡。給湯室。窓から見える広い駐車場。
そこが…どこか……優香は全く分からなかった。
鏡を見てみる。
黒髪をツインテールにしてる女の子が映る。
誰だ?これは…
分からない。
鏡に映る人物は確実に自分なのに…名前が出てこない。
恐怖がじわじわ込み上げてきて、優香は悲鳴をあげた。
****
朝の光が、カーテンの隙間から漏れる。
優香は自分の悲鳴で目が覚めた。
ここは、何処だ?自室…否、宿直室だ。
ここは50xx年の人工惑星の軍部。
自分は0小隊に配属されており、相方の名前は飛風…隊長は酒光……−その上の上司は……上司、は…
「蒼桐大佐!!」
叫ぶや否や備え付けの鏡に直行する。
鏡に映る、寝癖のついた黒髪。ちょっと目付きの悪い大きな瞳。
「日之出…優香……」
そっと…鏡に触れてみる。
−大丈夫。全て覚えてる。
ほーっ…と深いため息を吐くと、優香はその場に座り込んだ。
***
制服に着替え、髪をいつものツインテールにする。
ドアを開けると、同じタイミングで隣の宿直室のドアも開いた。
少し気まずくなって、優香はえへへ…と、わざと笑って見せる。
「警備の宿直ご苦労様です」
「…0小隊さんも、ご苦労様です」
人の良さそうな青年が、笑い返してくれた。
それに幾分ほっとして、優香は頭を下げてから屋上へと足を向けた。
そんな彼女を、警備班の青年は…複雑そうに見送っていた。
***
早朝の風に吹かれながら、ぼんやり…と朝焼けを眺める。
まだ少し肌寒い。
両腕をさすりながら、優香はフェンスに寄り掛かる様にして呟いた。
「…失くしたら……も一度始めればいいじゃん。…何度でも……」
か細い声は、急に強くなった風に押し流されて…消えた。