番外

□彼女の光
1ページ/5ページ



 真っ暗な、場所。
 優香は一人、立ち尽くしていた。
 ここは、どこだろう?…と考える。

 見当がつかない。

 一つの扉を見付ける。
 開けてみる。
 真向かいに並べられたデスク。そこから少し離れた所に大きめのデスク。小さな鏡。給湯室。窓から見える広い駐車場。
 そこが…どこか……優香は全く分からなかった。
 鏡を見てみる。
 黒髪をツインテールにしてる女の子が映る。

 誰だ?これは…

 分からない。
 鏡に映る人物は確実に自分なのに…名前が出てこない。
 恐怖がじわじわ込み上げてきて、優香は悲鳴をあげた。




****




 朝の光が、カーテンの隙間から漏れる。
 優香は自分の悲鳴で目が覚めた。

 ここは、何処だ?自室…否、宿直室だ。
 ここは50xx年の人工惑星の軍部。
 自分は0小隊に配属されており、相方の名前は飛風…隊長は酒光……−その上の上司は……上司、は…

「蒼桐大佐!!」
 叫ぶや否や備え付けの鏡に直行する。
 鏡に映る、寝癖のついた黒髪。ちょっと目付きの悪い大きな瞳。
「日之出…優香……」
 そっと…鏡に触れてみる。

−大丈夫。全て覚えてる。

 ほーっ…と深いため息を吐くと、優香はその場に座り込んだ。


***


 制服に着替え、髪をいつものツインテールにする。
 ドアを開けると、同じタイミングで隣の宿直室のドアも開いた。
 少し気まずくなって、優香はえへへ…と、わざと笑って見せる。
「警備の宿直ご苦労様です」
「…0小隊さんも、ご苦労様です」
 人の良さそうな青年が、笑い返してくれた。
 それに幾分ほっとして、優香は頭を下げてから屋上へと足を向けた。
 そんな彼女を、警備班の青年は…複雑そうに見送っていた。



***



 早朝の風に吹かれながら、ぼんやり…と朝焼けを眺める。
 まだ少し肌寒い。
 両腕をさすりながら、優香はフェンスに寄り掛かる様にして呟いた。
「…失くしたら……も一度始めればいいじゃん。…何度でも……」
 か細い声は、急に強くなった風に押し流されて…消えた。





次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ