―大嫌い!!
と、言ったあの日の言葉を撤回したくて…… ―
【金曜日の兄妹】
少し洒落たカフェテラス。
緑のパラソルとモダンな木目調のテーブルとイスがバランス良くテラスに配置されている。
穏やかな陽射しも心地良い。
頭上には時折スペースエアシップ(宇宙飛行船)が通り過ぎて行く。
楽しそうに談笑する、これまた少々洒落た人々の中で……月葉の目の前にいるダークスーツの男は明らかに浮いていた。
カフェオレの中にある氷をストローでガシャガシャかき回し、それを抜き取るとガラスコップを直接口に運ぶ。
カフェオレを置いていたコースターの横には大量のガムシロップ。その隣の灰皿には大量の煙草。
「呆れた」
月葉は思わず呟いていた。
「甘いもの好きが変わってないのはいいとして……何? それ?」
灰皿を指差すと、チラとこちらを見る目。―……別にガンを飛ばしてる訳ではないのだが、元々目付きが良くないので睨まれていると大低の人は錯覚してしまう。
しかし、月葉はそんな事にも慣れっこだった。
彼の本質を、知っているから。
何も返答してこない兄に対し、月葉は再び尋ねる。
「軍に入ってから覚えたの? 煙草。それとも、警軍の刑事課に配属されてから?」
彼は伏し目がちに煙草を胸ポケットから取り出すと、火を点けた。……おそらくはこれで七本目である。
ゆっくり煙を吐き出しながら、兄はやっと月葉の問いに答えた。
「刑事課の研修生ぐらいから、か」
「バカじゃないの」
間髪入れずに叫んだ自分を、月葉は悔いた。