斉藤受

□泣かないで
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斉藤が怪我をした。
自分のミスではなく。

…鴇を庇ったのだ。






病室の扉の前で突っ立っている鴇を見つけて、斉藤は声を上げた。

「あっ、鴇さん!来てくれたんスね!」

鴇は、分からなかった。戸惑っていた、の方が近いかもしれない。
…何故、こいつは自分に怪我をさせた人間に、笑えるのだろう。
…俺に、もう一度…斉藤に触れることを赦される、権利はあるのだろうか。

「…鴇さんっ?こっち座ってください」
「あ…あぁ、」

斉藤が指したパイプを組み立て、ゆっくりと腰を掛ける。

「…キズは」
「あ、全然大丈夫っスよ!以外と浅いところで止まってたみたいっス」
「…そうか」

前回のゲームの対戦は、向こうチームがHOME、こっちがAWAYだった。
相手は、全員が銃を持ち込んでいた。
三人のうち二人は、AAAチームの誰にも銃弾を当てることなく美柴と中条に倒された。

そして、ディスクを持っているはずの残り一人。
トイレの個室に隠れていた。
それを見つけたのは美柴。

だが、扉を開けた瞬間、発砲された。
それと同時に、目の前に飛び出してきたのは…

斉藤。

不幸中の幸い、弾が当たったのは心臓付近ではなく腹部。
それでも、出血が続けば最悪の事態は免れない。

発砲の音を聞いてそこにやってきた中条は、斉藤を抱えて呆然としている美柴を押しのけ、
トイレの中で笑っている敵の頭を鉄パイプで殴りつけ、ゲーム終了。

すぐさま斉藤を病院へ運び、治療をされ病室へ案内された。
美柴はずっと病室へいるつもりだったが中条に帰れと言われ、昨日は大人しく帰宅した。



そして、今日となる。

斉藤の話によると、中条は今日の朝方までずっとここにいて、色々と世話をしてもらったらしい。
美柴と入れ替わるように出ていった、と。



「…悪かった」



…あれは完璧に、自分の不注意だった。
自分のせいで…コイツが怪我をした。


「な…鴇さんは悪くないっスよ!?勝手に飛び出したのは俺なんだし…」


確かに、自分から飛び込んでいったのは斉藤。
しかし、俺がもっと注意していれば…
斉藤は怪我をしなかったのに。


「だから…そんな、顔…しないでください…」


ばっと斉藤の顔を見れば、真っ直ぐに自分を見つめる斉藤の瞳。
けれど、その表情は泣きそうになっている。


「…ね?俺は、大丈夫っスから……泣かないで…」


…何を。泣きそうな顔をしてるのは、自分のクセに。
そう思っているのに…視界は霞んでいくばかり。

零れる寸前で、はっとする。
こんなところで泣いたら…後で中条さんになんて言われるか。
いつ中条さんに斉藤をとられるかわからない。


「泣いてない」


何度か瞬きをして、僅かに浮かんでいた涙を引っ込ませる。
他人に泣いている姿を…ましてや斉藤に見られてたまるか。


「…そうっスよね。鴇さんは泣かないっスよね!」


そう言って、また斉藤はにっこりと笑った。

渡すものか。失うものか。
この笑顔だけは…。






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