斉藤受

□光
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そんな、綺麗事だけじゃ生きてはいけないだろ?



――最初お前を見た時、そう思った
バカだろコイツ、と同時に、少し冷めた思いもあって

だけど、そんなんじゃなかった。お前は

綺麗事とかじゃなくて、綺麗なんだよな
お前の心ってさ


…眩しいよ、少し
暗闇の中で生きてきた俺にとっては…よ






「…俺、」
「もういいって、斉藤」

――中条宅。
肩の付け根の方に包帯を巻いた中条は、布団に横たわっていた。
そして斉藤は、そのすぐ隣に体育座りをしていた。


「…よくないっスよ」
「俺がいいって言ってんだ」
「だって…!」


だって、俺のせいで。
中条さん…、そんな怪我…してしまって。


「…斉藤」
「俺っ、おれ…!足手纏いってことはわかってたっスけど…!」

だけど、二人には迷惑はかけたくなかったのに…。


…その言葉は、途中で遮られた。

「んッ…、」
「口…開けろ」

唇の上で、彼の唇が動いて。
その低く響く声に…抗えない。

「ふ、ぁ…!なか、じょ…さぁん…」

だめ、だよ。
だって、あんた…怪我してんのに。
そんな起き上がっちゃ…だめだって。

そう、言いたいのに。
口腔で暴れまわる中条の舌に、翻弄されてしまって。

「ッは…」
「斉藤…」

やっと離れた唇。
二人を、どちらのものかわからない銀色の糸が繋いだ。

「…キズ、血ぃ出てるっスよ…」
「…マジ?うわ、やべ」
「ちょ…、包帯真っ赤じゃないっスか!」

すぐ止まるだろうと思われた出血は、なかなか止まらず。
患部に巻かれた包帯は、みるみる赤に染まっていった。

「新しい包帯持ってくるっス!」
「待て斉藤」
「え…?」
「止まった、ほら」

促され、見てみると。
確かに、先程までじわじわと広がっていた赤は、もう止まっていた。

「よかった…」
「な?平気だろ」
「な、じゃないっスよ…」

ふと斉藤の顔を見れば、もう泣きそうな顔をしていて。
甘い微笑を浮かべた中条は、斉藤の頬に手をやった。

「…お前、責任とれよ?」
「……なんのっスか」

傷が治るまで、世話をするつもりだった斉藤。
…けれど、中条の笑みに…僅かな危険を感じて。


「こんな…、明るい場所に慣らしやがった責任」


――斉藤が、この言葉の意味を理解することはできなかった。
けれど、中条はふっと静かに笑って。


「まぁ…、ずっと傍にいろってこと」


一度、光に慣れてしまったら
あの闇には戻れないような気がして

傍に、光がいなければ…。





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