BL:願い事ひとつだけ

□1:始まり。
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「頼むから、あいつの命を助けてくれ。」

 始めはただ、与えられた仕事をこなすだけだった。
でもいつしか、人間が知りたくなった。
人間って何なんだろう、って。

「……。」

始めはただ、どんな子なのだろうと思っただけだった。
でもいつしか、あの子が知りたくなった。
あの子にとって俺はどんな存在なんだろう、って。

俺は死んでも良い。
ただ、あいつの命を助けたかった。
今までに何億と魂を回収してきたけれど、こんな気持ち、初めてだった。

あの子が死ぬのは嫌だ。
でも、あの子の願いを叶えたい。
今までに何億と仕事をしてきたけれど、こんなにやりにくい仕事、初めてだった。

「俺に出来る事なら、何でもする。」

仕事を放棄すれば、命は無いかもしれない。
それでも俺の全てをかけて、この願いを叶えたい。
でも、俺には叶えられない。

「……。」 

仕事が成功すれば、トップであり続けられる。
俺の名誉は、安定し続ける。
でも、あの子は消える。

いつの間にか、俺は大切な物を忘れていた。
こんなに大きくて、暖かなものなのに。

いつの間にか、俺は大切な物ができていた。 
こんなに大きくて、暖かになるなんて。

「仕事の放棄が何を意味するのか、分ってるの。」

「例え俺が消える事になったとしても、後悔はしない。」

「……。」

「…ありがとう。」

俺には、もうあの子は止められない。
止める術が見つからない。
あの子の願いが、俺の願いを消してゆく。


私は死にたくなかった。
けど、あの人を消し去ってでも生きたいなんて、本当に望んでいたのか自分でもわからない。
どこか懐かしく感じる彼に、私は救われてばかり。
それでも私は、何も出来ない。
彼らの領域に、私は入れない。
私の願いは、彼が消えないこと。
私の願いは、私が死なないこと。
どうか、この願いを叶えてください。
願い事は、いつも大切な物だけ叶わない。
でも、全て叶わないわけではない。
こんなに悲しい気持ち、私には大き過ぎて、耐えられない。
でも、死ねない。
私に命を残してくれた、彼の為にも。

叶わない願いだからこそ、切なく、悲しい。
そして、苦しい。
それでも願わずにはいられない。

あなたの願いは、何ですか?
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