抜け道をぬければ
□ほっておけない
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ほっておけない
「え?それで結局朝飯食えへんかったうえに行き道は山瀬背負ってそんで遅刻までしたんか?」
ぐ―― きゅるるるる
「あぁ…。なぁ、サボテンって食えるんやっけ…?」
綾部は目の前のサボテンをみて言う。
「給食まで我慢せぇよ。観賞用はうまないで」
クラスメイトの岸本が綾部にツッコむ。
しかしそんな綾部を岸本は馬鹿にせず、むしろ同情した。
その理由は彼の家の事情。
「しっかし自分、家の仕事やりすぎやない?」
「…しょうがないねん。父親がトラック運転手で母親が看護師やから…ここ数日顔も見とらん」
「おいおい、長男の負担多すぎやろ。大丈夫なんか?」
綾部は六人兄弟の長男なのだ。
そのせいで彼は朝から晩まで家の用事に追われる日々を送っていた。
「まぁ、家事には慣れたから平気なんやけど…せやな……たまに…無性に一人になりたくなる時があるわ」
「…そっか」
ガラ
保健室に行っていた希夕が教室に入ってきた。
こちらもかなり疲れた様子だ。
「あ、山瀬!足どうやった?」
「うん、軽い捻挫みたい」
「いけるんか?」
「ありがと。平気だよ――…」
バタン!!
希夕は大きな音を立てて床に倒れる。
「ちょっ!?自分全然いけんやん!!」
「…ぅ、何か…た、たべもの…… ! 」
何もない空に手を伸ばす彼女の目に映ったもの。
「…サボテンって、食べ物?」
「「観賞用はうまないで」」
「嫌だ!!絶対ダメッ!!」
「何言うてんねん!!俺やってこれだけは譲れん!!」
その日の給食の時間。
クラス全員は呆然と二人の争いを見ていた。
「いくら綾部でもこの最後のコロッケだけは譲れないの!!」
「それはこっちもや!コロッケが好物なうえに死にそうなくらい腹減っとんや!!」
そう。給食のおかわりである。
「レディーファーストだよ綾部!」
「コロッケ一つでギャーギャー言うやつはレディーやない!」
「なによ!綾部は牛乳でも飲んでなさい!!」
「なんでや!身長か?身長の事言よるやろ!?」
その様子を見守るクラスメイト。
「「「……」」」
「綾部と山瀬って、あんなに仲良かったっけ?」
「…さあ?」