抜け道をぬければ

□逃げた場所で
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逃げた場所で











雨の降る日、入院中のお母さんが



この世を去った。



お父さんの時も、同じような天気だった気がする。





「希夕。一人暮らしは、どうだ…?」





うまくいかない義父との生活。
義父には、家から離れた学校を薦められた。
寮生だけど女子寮が開いてないから、
マンションの一部屋を借りるしい。














「…そうだね」




















もうすぐ、この町を離れる私の中に













「……」





浮かんできたのは…































「あーやべんっ!」





俺はあれから緑ヶ丘学園に入学した。

案外忙しい日々を送ってる。

理事長の息子の生徒会長に生徒会に入れさされたり

それから最近、変な奴につきまとわられたり。









風紀部の黒崎真冬って女や。

つまり生徒会の敵。

そのくせ変なあだ名で呼んできたりする。







あれから、人と関わることを避けてたはずやのに











全部 置いてきた



伸ばされた手も

俺を呼ぶ声も



全部 振り切って





俺は







逃げ出した、はずやのに――…

























待って…!!



「待って」「置いてかないで」





嘘や…

違う…



ここにおるはずあらへん



でも「待って
























あやべ…あっ



ずべっ ゴッ







綾部を追いかけてきた真冬が、滑って額を打つ。





「……あぁ、くろさき…っゲホッ





綾部は苦しげに咳をするとその場に膝をつく。





「あやべん!!?大丈夫!?埃!?ゴミ!?キレイな所行く!!?」



「…いや…これは違うねん。ちょおじっとしとったらすぐに…」





顔を上げた綾部は真冬の額の傷に気がつく。





「おい、顔擦りむいとる」

「え?」

「ほれ、これ貼り」





絆創膏を手渡した。
それを持ち運ぶ癖は、まだ変わっていなかった。





「…この前から思ってたんだけど、あたべんってさ、兄弟いるでしょ」





そんなマメな綾部を、真冬が微笑ましいように笑う。





「なんか行動がお兄ちゃんっぽいっていうか…」



「……ああおる」



「あっやっぱり!!私一人っ子だから…「けど…

















「俺は…兄貴失格なんや…」













「待って」

「なぁ」

「置いてかんとってっ」





お兄ちゃん!!





秋三、幸四郎、小末、梅次、一華…











「 綾部 」







山瀬











あれから

もう一年近く経つんか…































「どうしても一人になりたくて、あいつら置いてった。

それから、汚れたモン見たら変な発作が出るようになって…

それを偶然見た花房に、生徒会に入れ言うて脅された」





掃除道具の入ったギターケースを抱える手に力を込める。







「俺は、あれからずっと逃げ続けとる。
楽になりとうて…
どうすればええかわからへんのや。



な、兄貴失格やろ」







散らかっとる部屋とか汚れとるもんとか


そういうん見るとな


罪悪感が疼くねん


考えたない事思い出すんや








「(一年…か…そんな気持ちのまま一年…)」





彼の過去を知った真冬。
この学園は、それからの逃亡先だったようだ。
かくいう真冬本人も、自分の意思で緑ヶ丘に編入した訳ではなかった。









「…ねぇ、あやべんは学校楽しい?

私はさ…ここには入りたくて入ったわけじゃないんだ…

色々事情があってね。

最初はそれがちょっと引っかかってたんだけどさ」







真冬さんは俺達の番長です!!







喧嘩をして退学になった真冬。
久しぶりに帰った地元で必死に自分を追いかけてくれた
元子分達の放った言葉。





「…うん、会ってよかった。

やっぱり心残りはあっちゃだめだよ。

ちゃんと片づけてからじゃないと

散らかったままで前に進めない」





ぎゅっ





「だから」





真冬が綾部の手を握り引いた。







「行こうか!あやべん」

「は!?どこに!?」















あやべんの家!!!



「はぁ!?」





















〜To be continued〜

 

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