Under Lover
□A glass and a confident person
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4.A glass and a confident person
グラスと自信家
南校舎の最上階。北側廊下つきあたり。第三音楽室。
「環くんなら、夏は何処へ連れてってくれる?」
「君の行きたい所ならどこへでも」
「環くんの好きな音楽は?」
「君が好きだと思うものを」
「今日はケーキを焼いてきたの♡食べてくれる?」
「君が食べさせてくれるなら」
「(なるほど。あの無駄に薔薇のオーラを振りまくナルシスとが、2年A組の須王環ねェ…)」
ハルキが唖然とする横で、夏祈は平然と状況を整理していく。
「あっはは!そんでこいつってば、徹夜で作ったデータ寝ぼけて初期化させてさー」
「光!!その話は!!」
「「あははは馨くんかわいー♡♡」」
「パニック起こして俺に泣きついてきて――…」
「光!!ひどいよ、皆の前で…そんな話…」
「馨…ごめんよ馨…あの時のお前があんまり可愛かったから…つい…」
「光…!!」
「「きゃー♡♡麗し兄弟愛よ!!ステキ!!!」」
光と馨がしっかりと手を取り合う。
「(あれが私と同じのクラスの常陸院光に馨か。瓜二つの双子での兄弟愛…)」
「(なぜ泣いて喜ぶ女子…)」
「「(よくわからん世界だ…)」」
見事にハルヒと夏祈の心中が重なる。
すると、二人の隣にいた、環とクラスメイトである鳳鏡夜が説明する。
「各自の特性を生かしお客様のニーズに応えるのが方針でね。
ちなみに環がうちのナンバー1だよ。」
「え゛ぇっ!」
環の指名率は七割。つまり、十人のうち七人が環を指名している。
「当分藤岡君には雑用係。そしてさっき言ったとおり茅野君には接客をお願いするよ。後で特訓かな。
逃げるのは自由だが…我が家には有能なスタッフが揃っていてね。ざっと100人ほどね」
そして鏡夜はにっこりと爽やかに笑う。
「君達、パスポートは持ってる?」
ゾクッ
「(悪魔の笑みだ…)」
「(日本にいられなくしてやるぞの意だよ絶対…!?なんて奴だ!!)」
夏祈がゴクリと唾を飲み鏡夜を見ていると。
「なんだい茅野君?」
ビクゥ!!
「い、いやぁ!なんでも!!」
鏡夜の黒さが少したりとも見えない爽やかな、しかし恐ろしさも感じさせる笑みに夏祈は顔を引きつらす。
「(な、なぜ君を強調した…!?鏡夜先輩とは、あまり関わらない方が身のためだ…)」
夏祈は鏡夜を一番の危険人物だと認識したようだ。 すると
ガチャ
「ごめーん遅れた――」
3年A組み埴之塚光邦が、同じく3年A組みの銛之塚崇に背負われ入ってきた。
「「きゃー、ハニーくん♡モリくん♡待ってたのよー♡♡」」
二人の周りに女子が集まっていく。
「ごめえん、崇の剣道部終わるまで待ってたからつい寝ちゃってー」
ハニーはモリに背中から下ろしてもらう。ハニーは初等部の生徒の様な見た目であるので無論、女子たちの目線は下に下がる。
「んー…なんかまだねむーい…」
きゅんっ
ハニーがふにゃっと目をこする可愛い姿に女子はメロメロである。
「…ホントに3年なんですかあの人…初等部の子がまぎれているのかと…
そしてあの怖面の人は一言もしゃべってないんですが…」
「何を言う。ハニー先輩は部内最長年だぞ。ああ見えて秀才でいらっしゃる。
モリ先輩はあの静けさがウリなんだ」
「はあ…」
夏祈は小さくため息をつく。
「俺、今日は静かな所で本読みたかったのに」
「自分も、静かな所で勉強したいと思っただけなのに…」
そう言うとハルヒと夏祈は誤り合った。するとそれを聞いていた環がハルヒに聞く。
「なんで?家は?」
「昼間は父が愛人つれこんでるもんで。夜の仕事なもんですから」
「おーお…。父親とはうまくいってないわけか。それで学費も出してもらえんと」
「あ、イエ、仲は良いんです。金遣い荒いけど」
ハルヒは微笑み言う。
「ただ、できるだけ負担をかけたくないというか。十年間男手ひとつで育ててくれたわけですし。自分でできる事はと思って――…」
「ハルヒ。」
夏祈はハルヒに呼び掛ける。
「何?」
「その、ハルヒのさ、お母さんは…?」
夏祈が控えめに問う。
聞いてもいいのだろうか。
「母ですか…?母は10年前に病気で亡くなりました」
「そうなんだ…」
夏祈が少し申し訳なさそうに言うと…
「やはり。主食は大根メシなのか?」
環が言う。
「「 は? 」」
「貧乏のあまり奉公に出されそうになったりイジワルな金持ちにこきつかわれ泣きぬれて眠った経験が!?」
「いつの時代の話しですか!!」
環が大粒の涙を流しがっしりとハルヒの肩を掴む。
「イヤ、すまん。最近“おしん”の再放送にハマっていたものだから…まさか君がモデルとは知らず…」
「ええ!?まさかあの有名な“おしん”のモデルがこんな近くに…」
「ちがいます。ストーリーがまるで違います。というか夏祈もノラなくていいから」
ハルヒが冷静に二人にツッコむ。
環が涙をぬぐうと真剣な顔で言う。
「よしハルヒ!!手に職だ!!君の容貌では無謀かもしれんが、この俺が夏祈と同じように徹底的に指導してやろう!!
そうだな、君ならせいぜい…」
ビシ
ハルヒを指差し告げる。
「100人!!」
「ヒッ」
「100人の指名客を集められたらついでに800万もチャラにしてやろう!!」
そして巻き込まれた夏祈は
「えとっ…じゃ、俺はぁ…」
「夏祈はハルヒが100人集められるまでいてもらう!!」
「……」
そんな気がしていたのだろう。先程と変わらぬ顔で夏祈は窓の方へ、ゆっくりと歩いていく。
「ハルヒ!そして輝くおしん界のホスト星となるのだ!!」
「(い…いやだあああ!?雑用のがマシだあああ)」
絶望するハルヒ。そして夏祈は窓の外の綺麗な青空を見て、フッと爽やかに微笑んだ。
――俺、得する?