紅い館の見習いメイド

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 正真正銘仕事がなくなって自室。
 なんとなくべっどに座って足をぶらぶらとさせているものの、見事にやることがない。
「……寝よう」
 ポテンと寝転び、もぞもぞと布団を被る。
 めいど服のままだが、まぁ、大丈夫だろう。寝巻きは今度買いに行けばいい。
「あー……。でもいいのあるかなぁ」
 無駄なことをつらつらと考えすぎて寝るのが遅くなったのであった。



 その頃。紅魔館の一室では吸血鬼、レミリア・スカーレットとその従者、十六夜咲夜が会話を繰り広げていた。
 話の種となっているのは夜空天満のこと。紅魔館に就職に来た変人である。
「――不可解?」
「はい。夜空天満は間違いなく無害な人間で、弾幕すらまともに出せず、出来ることと言ったら掃除や簡単な料理程度」
「それで?」
「なのですが。彼女は、妖精を従えているのです。驚くことに、妖精に指示を出し、短時間で紅魔館の掃除を完了させています」
 妖精は総じて悪戯好きで、そして頭が弱い。
 例外はいるものの、複雑な仕事などは出来ないし、すぐに遊んでしまうのが妖精だ。
 それが、一人の人間の指示だけで紅魔館の掃除をこなすようになる。
「へぇ? あの子は何か能力を持っていたりするのかしら」
「『珍しいものを拾う程度の能力』と『浄化する程度の能力』を持っていると聞いています。彼女の自己申告ですが」
「嘘を吐いている可能性は?」
「ありません」
 即答だった。
 そんな咲夜に、レミリアは怪訝な表情を見せる。
 ……咲夜は出会って一日二日の人間をここまで信用するだろうか?
 そんな疑念がレミリアの脳裏に浮かぶ。
「根拠は?」
「ありません。……不思議なことに、彼女を疑うということが出来ないでいるのです」
「理由は……分らないのね?」
「はい」
 疑うことが出来ない。それはきっと何かの力が働いているのだろう。
 人間、誰かを疑うことなんて日常茶飯事であるし、しかも天満と咲夜は出会って一日二日程度の時間しかたっていないのだ。
 だというのに、疑えないということは何かの力が働いているとしか思えない。
 天満が第三の能力を隠しているか、気付いていないのか。もしくは咲夜自身が変わっているのか。
「……面白い人間ね。あの子は。私の気当たりも軽く受け流していたし」
 気当たりとはつまり、蛇に睨まれた蛙である。
 天敵を前にして体が硬直してしまうような、そんな状態を引き起こすのだ。ただそこにいるだけで。
「昨日はそんなことなかったんだけどねぇ」
「……昨日と今日で何かしらの変化があったと?」
「そうとしか考えられないでしょう?」
 確かに、と咲夜は頷く。
 一晩で人はそんなに変わらないが、しかし一晩でも結構変わってしまうものだ。
「だとしたら、どんな変化が……」
「確かめてみる?」
 咲夜が呟くと同時、部屋の扉が開き紫色の女性……パチュリー・ノーレッジが入ってくる。
「確かめる、ですか?」
「そう。分らないのなら確かめればいいだけよ。きっとあの子の能力は……」
 パチュリーは一つの仮説を話し始める。
 それは所々不確かではあるものの、充分納得のいくものだった。
「もしそれが本当なら、随分と変な子を雇ったんですね……」
「いいじゃない。きっと退屈しないわ」
「それじゃあ、早速明日からやってみましょうか。流石に寝てるところにやるのは忍びないわ」
 紅魔館に入った新しい人間の影響は、様々なところで出てきている。
 それが良いものなのか、悪いものなのか。今はまだ、誰も知らない。

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