紅い館の見習いメイド

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 私が紅魔館に勤め始めてから一週間。
 仕事にも慣れてきて、ただでさえ多かった空き時間が更に多くなり困っている今日この頃。
 めいど長の仕事を手伝うという選択肢もあったけれど、しかし足手まといになりそうなので止めておいた。
 瞬間移動する人の手伝いは出来ないよ。うん。
 そして、朝昼晩と三回ほど図書館に行くことを義務付けられた。
 理由はさっぱり分らないのだが、行く度に珍しいお茶やお菓子を出してくれるから不満はない。ただ、時折物凄く不味いものだったりするけれど。
 あ、あと三回に一回はパチュリー様が変な覆面をしてて、小悪魔さんは身悶えてる。
 パチュリー様はコホー、コホーって。小悪魔さんはバタバタと。
 何かの儀式だろうか。気になるけど聞けずにいる。ちょっと怖い。
「悪魔の召喚とか……?」
 漏れ出た声に、植物が反応する。首を傾げ、ツタでペチペチと叩いてくる。
「何でもないよー」
 そう言って水をかける。植物が口っぽいところを開き、そこから水を取り込んでいく。
 実に人間臭い。
「私のせいなんだけど。……ところで、ここら一体の草花の成長が速いのは君のお陰?」
 今いる場所は館の庭。美鈴さんが管理しているというお花畑の一角。
 他の場所が綺麗に揃って咲いているのに対し、今いる場所は他よりも成長している。
 しすぎている、とも言える。
「大体、一めーとると半分くらい?」
 私の身長より少し小さいくらい。雑草でさえもここまで伸びている。
 原因は植物が埋まっていたからなんだろうけど。
 こくこくと頷く植物は、誇らしそうに胸を張っている。うん。成長が速いのはいいと思うけど、これは流石に自重して欲しいね?
 そう告げると、植物は頭の花を少し萎らせ、がっくりとしていた。少し罪悪感が。
 そこでふと思い出す。
「ねぇねぇ。名前欲しい?」
 聞くと植物は喜色満面で頷く。顔がどこかはイマイチ分りづらいのだけど。
 名前。名前……植草ちゃん? 我ながらこれは酷いね。
 ぷらんとちゃんとか……駄目だ。イマイチ上手く発音できない横文字は駄目だ。練習しないと。
 頭の花が赤いから……紅花? でもこの間生え変わったときに緑色だったし……。
 植物、草木、草花。……あ、草花と書いてソウカとか。名は体を表すって言うし。
「よし、じゃあ君はソウカちゃんだ」
「…………sjkolouhekgta?」
「うん」
 …………喋った!?
 え、ちょ、ええええぇぇぇえ?
「…………sdehkuaieblpepltkotmmedenhuacvilpyawo?」
 いや喋ってるよ割と長い台詞!
「パチュリー様ぁぁぁぁあああああ! 植物が喋りましたぁぁぁあああ!」
 ソウカを抱きかかえ地下へと急ぐ。
 その際、ソウカはくねくねと赤くなりながらうねっていたんだけど、何ゆえ?



 地下。大図書館にてパチュリー様にソウカを調べてもらう。
「……ふむ」
「何か分りました?」
「クドいようだけど。貴方の頭が」
「おかしくないです!」
 何故事あるごとにそう言うんだパチュリー様は。
「んー……。貴方の頭がおかしいのでなければ、特に異常はないわね。強いて言えば植物の魔力が澄んで……」
 そこまで言うと、何やらごそごそと色んな器具を取り出し始めた。
「まさか、ね。魔力の波長が変わるなんてことは…………あったみたいね。こんなに大きく変わるなんて異常だわ。何か原因が」
「……そこで何故私を?」
 知らないよ? 私は何も知らないよ?
 と、そこでソウカに動きがあった。
 ぬるぬると蜜を垂れ流し、パチュリー様の手から抜け出す。
 そして
「……wahutadbsinusilengukaresilpta」
 と、先ほどよりも流暢に喋った。何故先ほどは隠そうとしたのか。
「何を言っているのか分らないわ。英語か日本語で話しなさい」
 いやいや。それは流石に無理でしょう。植物が何かを話しているというだけでも驚きなのに日本語話したら私の腰が抜けますよ。
「……nikohodenyego?」
「私たちが使っている言葉よ。というか貴方、どうやって発声を……ああ、魔力による空気振動ね。ならそっちを解析したほうが速いかしら」
 専門的な話に。これはやることがなさそうだ。
 上に戻ってめいど長にお菓子でもねだってみようか。今日は青とか虹色とか、毒々しい色をしていないお菓子が食べたい。
 美味しいんだけど、口に入れるまでが大変なんだよね。見た目で怖気づくというか。
「ああ、天満。戻るのならこれを飲んでいきなさい」
「……なんですか、これ?」
 手渡されたのは丸いふらすこに入った無色透明の液体。
「……栄養ドリンク」
「何ですか今の間は。凄い不安なんですけど」
「大丈夫よ。体にいいものが沢山入ってるから」
「そうなんですか? ならいいですけど」
 言って、ふらすこの中身を飲み干す。かぼちゃの味がした。
「…………互いに作用しあって若干体に悪いものになってるけどね」
「何か言いました?」
「何も言ってないわ」
 でも、何かボソッっと聞こえた気が……。
「植物の声よ」
「でもそれとはまた違った感じが」
 別にいいんだけど。気のせいなら気のせいで。
 でも、何故か何かの危険に晒されていたような気がするんだけど。これも気のせいかな?

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