紅い館の見習いメイド
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「hikasihenolaidysirenedsgayeilpkacdnawoeaqru」
大図書館。そこの主パチュリー・ノーレッジは目の前の植物が発する魔力の振動を解析していた。
植物……彼女の飼い主である夜空天満はソウカと呼んだが、ソウカが言ったのを解読するとこうなる。
『菱の石願い叶える』
願いとはどのようなものか。何処まで叶うのか。何故叶うのか。
パチュリーは喉元まで出掛かった言葉を飲み込む。
今は解読に集中しなければならない。そう自身に言い聞かせソウカの言葉に耳を傾ける。
「adekaloineiawsimwtahemabusixaifenozakaqetadwmalpri」
『赤い石魂の塊』
そこでパチュリーはストップをかけた。
そしてすぐさま、調べものに取り掛かる。
願いを叶える菱形の石。魂を材料とした赤い石。
何処かで、何かで、見たような気がする。
魔法を応用し、図書館内部にある本の錬金術関連、過去の遺産関連を探し出し、小悪魔に持ってこさせる。
数十数百と存在する本。
パチュリーは一冊に一分以上の時間をかけず、しかし見落としのないよう細かく読んでいく。
そして。
「……見つけた。宝石の種とサヴァンズストーン。どちらも空想上の物。……いや、だからこそ幻想郷に?」
幻想郷は忘れられたものが集う。パチュリーも、パチュリーの友人の吸血鬼だってそうだ。
彼女たち個人が忘れられたわけではなく、種族(魔法使いや吸血鬼)を人々が否定、信じなくなり、このままでは消滅してしまうから幻想郷に来た。
もっとも、彼女たちの出身国周辺にも幻想郷と似たような場所があった。幻想郷へ来たのは吸血鬼の友人の気まぐれに過ぎない。
さて。では幻想郷に似たような地域があるにも関わらず、西洋の遺物である二つの石が幻想郷へ来たのは何故だろうか?
「誰かが呼び寄せた……? それとも私たちが幻想入りしたときにその可能性を持ち込んだ?」
考え込むパチュリーに、ソウカがぺたぺたとツタで腕を叩く。
「aswni」
『兄』
「兄?」
解析したパチュリーが聞き返すと、ソウカはコクリと頷く。
兄。はて、身近なところで兄がいる人物はいただろうか。パチュリーはそこまで考え、そして思い当たる。
「天満……!」
全ての元凶は天満にあった。そしてその家族に。
「一体全体。どんな家よ夜空家は」
パチュリーの予測としては、きっと普通ではないだろうというものだった。
「んー。何でまたお兄ちゃんを……」
紅魔館を出て人里へと向かう。
めいど長から仕事として出されたのは、我が愚兄を図書館まで連れて行くことだった。
何故かは分らないけど。
「でも、どうしよっか。お兄ちゃん何処にいるか分からないから」
いや、呼び寄せる方法は一つだけある。あるのだが、羞恥心が犠牲になるので最終手段。
「地道に探すしかないかな」
あの人が行きそうなのは人里、妖怪の山、それと魔法の森くらいかな。
じゃあ、まずは人里へ行ってみよう。
人里。
団子貰ったりかんざし貰ったりけーね先生に兄の居場所知らないか尋ねたり扇子貰ったりしていると、魔理沙ちゃんが現れた。
「……何やってるんだ?」
「兄を探して三千里?」
三千里もないだろうけど。
魔理沙ちゃんに団子(みたらし)を差し出しながら、兄の姿を見ていないか聞いてみる。
「あの人なら、一年に一回くらいうちに来て色々と語っていくな」
「色々?」
「天満の可愛さとか、そこら辺をずーっと一晩中」
「愚兄がすいません」
別にいいさ。そういって魔理沙ちゃんは笑みをこぼす。なんと心の広い。
というか、一年に一回も魔理沙ちゃんの家に行ってたの? あの人。私はまだ一回も行ったことがないのに!
「それと、天満の生まれてから今までの成長が記録されているアルバムが数冊あるんだが、いるか?」
「いる。そして焼却……はしないけど厳重に保管する」
流石に焼いてしまうのは可哀そうだ。向こうも好意でやってくれているんだし。
でも、何時の間に作ったのだろうか? 写真とかは河童さんの技術がないと作れないのに。
そこら辺考えても仕方がないか。
「じゃあ、今すぐ取りに行くか。後ろ乗れるか?」
「抱きつけば何とか」
魔理沙ちゃんが何処からか取り出した箒に跨る。その後ろで同じように跨り、振り落とされないよう魔理沙ちゃんの腰に腕を回ししっかりと固定する。
「よし、しっかり捕まってろよ」
浮遊感が体を包み、そして景色が流れる。どうやら空を飛ぶことに箒はいらないっぽい。
魔理沙ちゃんが使いやすいから使っているだけなんだろう。
「そういえば、魔理沙ちゃん」
「どうした? あんまり喋ると舌噛むぞ」
警告に頷き、そして本題に入る。
「どうして、人里にいたの? もしかして霧雨道具店に」
「違うよ。ただ立ち寄っただけだ」
むう。全部言い切る前に答えるのは駄目だと思うよ。礼儀的に。
「もう勘当されてるんだ。あの人たちとは関係ないよ」
「そうかな? 家族って関係は案外切れないものだよ?」
ずっとずっと繋がってる。縁は簡単に切れたりはしないんだよ。
「そうか? まぁ、今回は本当に立ち寄っただけなんだが」
「そうだよ」
そして無言。特に話すことがなくなってしまった。
話したいことは沢山あったけれど、しかしこうしてみると話すほどでもないというか。
「ありがとな」
「ん? 何が?」
どんな話をしようと頭を捻っていたところ、魔理沙ちゃんからの急な言葉。
「いや、心配してくれたんだろう?」
「そりゃ、まぁ心配しますよ。家庭の事情だからあんまり口は出さないけど」
「ああ。だからありがとうだ。これは私の、私と家族の問題だからな。天満は心配だけしてくれれば、それでいい」
心配だけって。少しくらい手伝わせてくれてもいいのに。
「でも、やっぱりこれは私たちだけで解決しなきゃいけない問題だ。だから、天満は心配だけしてくれればいいよ。私も頑張るからさ」
「……うん」
頷くと同時、魔法の森が見えてきた。
茸の胞子が充満した森。そこに魔理沙ちゃんの家が存在する。
どんな家なんだろう? 紅魔館より大きかったりしないよね?