紅い館の見習いメイド

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「フォトニック純結晶、ね。手に入れることは出来ないと思ってたけど、まさかあの子から貰えるとはね……。まぁ、この大きさじゃあ予測演算なんて一つの道筋くらいしか出来ないだろうから、あんまり意味はないんだけど」
「……choladamoi?」
「ん? これが欲しいの? 貴方が持ってても何の役に立たないと思うけど……。ま、研究に使うわけじゃないからあげるわ」
「……akorimxgadeto」
「どういたしまして」




 私は植物である。名前はソウカ。
 宝石の種とサヴァンズストーンと妖精郷の加護で命を得ている。
 ついでに言うなら、他にも色々なものが混じっているのだが……それは別にいいだろう。
 今は、先ほど貰った純結晶を接続させている。もちろん、自分に。
 理由はいろいろとあるのだが、今の演算機能では足りないというのが一番だろう。
 純結晶をつなげば、演算し切れなかった未来を演算することが出来る。
 ……演算したところで、未来を変えれるわけではないのだが。
 それでも、やる価値はあるだろう。知っているのといないのでは、心構えに差が出る。心なんて上等なものが果たして自分に備わっているのかという疑問は置いておく。
「……deswkivata」
 呟く。まともに人語が喋れないのが恨めしい。意思の伝達は可能だが、しかし言葉を交わしてみたいのだ。何もせずに、自然体で。
「……kahuineshi」
 サヴァンズストーンの材料となった人魂と、宝石の種の膨大な魔力を用意。妖精郷の加護で自身を覆い、やっていることが誰かにバレないようにする。
 シュルシュルと、体中が成長を始める。ツタは加護の中を這い回り、葉は光を閉ざす。
 暗闇の中、時間の流れが遅くなったように感じた。
 予測演算を始める。
 魔力を回路にし、ブチブチと焼ききれる思考回路を人魂の持つエネルギーで強制的に再生していく。
「…………」
 いたい。イタイ。痛い。
 全身を焼かれたときよりも強い痛みが全身を襲う。
 声は出ない。元々魔力を振動させ出していた音だ。魔力の大半を使用している今、声が出るはずもない。
 見えてくる。
 紅い館。暗闇の地下。首を押さえる少女とうずくまる吸血鬼。
 聞こえるのは嗚咽と笑いと泣き声と怒号。喜怒哀楽全てを混ぜ合わせたような音。
 動く。少女が吸血鬼へと歩み寄り右手を伸ばし――
 ――右腕が宙を舞った。
 少女が吹き飛ぶ。その行方を確認しようと更に演算を進め、そしてヒビが入る。
 ピキピキと身体から異音が聞こえ、流れる魔力量が急激に減る。
 痛みは強くなり、限りある人魂も減るスピードが増す。
 これ以上は危険だ。そう判断し、演算を止める。
 魔力はある。人魂も残っている。が、生存するに必要な分だけである。
 ――足りない。
 もっと魔力が必要だ。せめて紫の魔女を超える量が。
 でないと、きっと今の未来は変えられないだろう。一つの予測でしかないが、たった今私が演算した所為でその未来が訪れる可能性が高い。
 ああ、しかし。
 あの人は何故あんなにも危ういのか。



 夜。人里で貰った安酒を一人で飲んでいると、どうしたのかソウカが部屋に訪れた。
 トテトテとまっすぐこちらに歩み寄り、そして右腕に巻きつく。
 発見した当初から右腕に巻きついているが、居心地がいいのだろうか?
「そうだ。ソウカはさ、お酒飲める?」
 首を横に振る。どうやら飲めないらしい。むぅ、不思議生物なのにそこは普通なようだ。
「残念。じゃあ、歌でも歌う?」
 頷く。んー……あの歌でいいかなぁ。
「咲〜いた〜。咲〜い〜た〜。たーげっとぉの花が」
 そこまで歌うとソウカがびくりと反応した。何事?
 気にしなくていいか。何か思うところでもあったのだろう。
「並んだ〜。並んだ〜。ア〜カ〜黒服〜白装束〜。どの花見てもいぇーふー!」
「うるさいわよ、天満」
「はい、すいませんめいど長」
 怒られた。少し声が大きかったようだ。
「歌は駄目かぁ……」
 呟くと、右腕にあった重さが消える。
 眼を向ければソウカが心なしか困ったような仕草をしていた。
 はて? 何かおかしなところでもあったのだろうか? 父さんから教わった歌なんだけど……。
 …………ま、いいや。おかしなことがあるのは何時も通りだ。
「ソウカはやりたいこととかある?」
 聞く。ソウカは少し戸惑うような仕草を見せ、小さく、
「……zusattodeifasshojuni」
 呟いた。
「ん、分った」
 ソウカを抱きかかえ、残っていた酒を飲み干しべっどへ移動。
 わたわたとソウカが暴れるが、逃がさないように捕まえ、布団に潜り込む。
「ずっとは無理だけど、なるべく一緒にいてあげる」
 観念したのかソウカの動きが止まる。
 それを確認してから、ゆっくりと瞼を閉じる。
 出来るなら、ソウカが消えないように。

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