絶対束縛主義


□全3
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暗闇でよく見えない愛里の顔。
でもそんな台詞を言うような、思い悩んだ表情をしているとは思えない。
どちらかと言うと、私をからかって笑っているような…。
でも今までに、愛里が私に嘘をついたことがあっただろうか。
小学校からの付き合いだけど、お互いにどうでもいい嘘しかついたことがない。
それ以外の嘘をつく必要なんてなかった。
多分、今もそうだ。

「そうなんだ!
言ってくれれば、今日の帰りに寄り道しながら聞いたのに。」

私は本能に逆らっていつも通りに振る舞った。

「今日はちょっと用事があって帰りはダメなの。それに、今すぐ話したいことだから…。」
「今すぐってことは、結構重要なことなの?」
「うん、私にとっては、だけど…。
明美にはどうでもいいことかも。」
「愛里の大事なことは私の大事なことでもあるんだよ!
遠慮しないで言ってみて。」
「あ、うん…。
あのね、お兄ちゃんのことなんだけど。」

“お兄ちゃん”
単語を聞いた瞬間に凍り付いた。
愛里は直人さんを神聖視し過ぎているところがある。
元が素直過ぎるから恋に盲目的になっているだけだと思っているけど。
でも昨日の詩乃への噛み付きっぷりは尋常じゃない。
“お兄ちゃん”と言う単語は愛里の精神状態を乱す危険物だ。
もっと近くで付き合えばそれもマシになるだろうと思ってキューピッド役を買って出たけど、頭の中で「手遅れだ」と何が叫んでいる。
何が手遅れなんだろう。
何かは同じことしか言わない。
胸がぐちゃぐちゃして気持ち悪い。
けど、騙されたフリは続けないと…。
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