狼夢化録
□chapter19:クリスマスの憂鬱
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7年生のクリスマス休暇明け、ホグワーツは大騒ぎだった。
グリンウォルフ一家の死亡──。セルシアを残して、彼女の両親と弟が死喰人に殺されたという。
僕やシリウスたちがそれを知ったのはセルシアの口からではなく、『日刊予言者新聞』でだった。
ホグワーツに戻ったばかりの僕、ジェームズ、シリウス、ピーターが大広間に入ると、セルシアは休暇が明ける前に戻ってきていたのか、まだ人がまばらなテーブルでぽつりと独り食事をしていた。
僕らのすぐ後に大広間にやって来たリリーは、セルシアを見つけるなり彼女に飛びついた。
「セルシア!ああっ……!!」
「リリー……苦しい……!」
「私、あなたに何もできなかった!その、新聞で知ったものだから……。本当にごめんなさい!」
リリーはセルシアを抱き締めながら、はらはらと涙を流していた。
セルシアは穏やかに微笑みながら、リリーの背中をさすった。
「リリー、私は大丈夫だから……。びっくりさせちゃってごめんなさい」
「そんなこと!でも、あなたが無事で良かった……!私、あなたがいなくなったら──」
そこで言葉を切ったリリーは再びセルシアを強く抱き、頭を撫でた。
女の子二人のそんなやり取りを、僕やジェームズ、シリウス、ピーターは少し離れた所で見守った。
見守るしかできなかった。
女の子はこういう時、とても慰め上手だ。
僕たち男は──特にこの四人組は──女の子を優しく慰めるなんて技術があまり高くない。
家族を殺されて独りぼっちになった女の子に、何と声をかけたらいいだろうか?
リリーのように、優しくセルシアを抱き締めるだけでも良かったのかもしれないが、複雑な年頃の僕たち(ジェームズたちが当時どう思っていたか知らないが)には、それすらひどく難しいことのような気がした。
「セルシア……」
ようやくリリーがセルシアを放したので、僕は恐る恐る彼女に話しかけた。
セルシアはリリーのきつい抱擁から解放され、大きく息を吐いたところだった。
「リーマス」
こちらを見上げて僕の名を呼ぶセルシア。
「休暇はどうだった?」
そう微笑む彼女はあまりにも普段通りで、僕が泣きそうだった。
「ねえ、セルシア───」
「大丈夫よ」
「え?」
ずしりと重くなった口をなんとか開いたが、セルシアのはっきりした声に遮られ僕は目を瞬かせた。
「大丈夫だから。リーマスたちも食事にしたら?お腹空いたでしょう」
その笑顔を見て、何を言いたかったのかすら僕は忘れてしまった。
* * *
休暇が明けてからしばらくの間、ホグワーツ中の生徒がグリンウォルフ一家殺害事件について囁き合っていた。
僕たちはもちろん、いつも通りセルシアに接するようにしていたが、他の寮や一部のグリフィンドールの生徒たちは、彼女をどことなく遠巻きにしていた。
それでもセルシアは気にする様子もなく、普段通りに生活していた。
そんな中、彼女の弟──ヴァルカスが死喰人の一員になっていたらしいとか、闇の陣営に抵抗していた両親との言い争いの末に、彼が家族を皆殺しにしようとしたとか様々な噂が耳に飛び込んでくることもあって僕を苛つかせた。
直接事件の真相をセルシアに尋ねてくる生徒もいたが、彼女は何も言わず肩をすくめるだけで、その肯定も否定もしない姿に、僕は言いようのないもどかしさを感じた。
──ねえ、こないだ君がキッチンで僕に言った「大丈夫」は、本当に大丈夫だったの?
不安に苛まれる君を、今ならあの時のリリーのように抱き締めてあげられる。
君が「大丈夫」と微笑む度に、あの時大広間で聞いた「大丈夫」と違うといいな、そう思うんだ。
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