狼夢化録

□chapter13:机上の再会
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「…あっ!!」

 急速にハリーたちに近付く点を私は指差す。隣でリーマスが息を呑む気配がした。

「『シリウス・ブラック』…」

 一体どういうことだかわけがわからない。


「様子を見てくる」
「私も行くわ」

 するとリーマスは首を振って私の肩に手を置いた。

「君はここにいるんだ」

「な…どうして!?足手まとい?」

「君を危険に晒したくないからだよ」

 リーマスは私を見て、はっきりそう言った。

「この地図で様子を見張っていてくれ。それで何か異変があれば…」
「助けに行く」
ダンブルドアを呼ぶんだ

 リーマスはぴしゃりと言った。

「…行ってくる」

「──気を付けて」

 私はリーマスの手を握った。

リーマスは手を繋いだまま数歩後ずさり、ゆっくり私から離れていく。ドアに向かおうとしていたが、お互いに結ばれた手を離さない。
しばらく、どちらも手を放そうとしなかったが、やがてリーマスがそっと繋がりをほどくと、部屋を飛び出していった。

 手に残るリーマスの熱を噛み締める間もなく、私はすばやく地図に視線を戻し「リーマス・ルーピン」と書かれた点がぐんぐん廊下を進み、城の外を目指していくのを見守った。


リーマスが校庭に出たのを確認した時、突然部屋のドアをノックする音がして、私は心臓が口から飛び出るかと思うほどびっくりした。

ガチャリとドアが開き、姿を見せたのはセブルスだった。

「グリンウォルフ?」
「こんにちは、セブルス」

 私を訝しむように睨み付けるセブルス。彼の手には煙の立ったゴブレットが──。

「──リーマスの薬?」
「ルーピンはどこだ?」


 リーマス…──今日の薬は?


ルーピンはどこだ、グリンウォルフ」

 さっきより厳しい口調でセブルスは繰り返した。

「あ…リーマスなら医務室に行ったわよ」

 まずい。セブルスに見られないようにさりげなく机の前に立ち、背後に羊皮紙を庇う。

「何を見ていた?」
「何が?」

 セブルスは近くのサイドボードにゴブレットを置くと同時にすばやく私と距離を詰めてきた。地図を何とか隠そうとした私の手をセブルスは掴み取り、私ごと地図を引き寄せた。

「男と秘め事か、グリンウォルフ」

 セブルスが私の手首を掴む力を強めたので、私は顔を歪めた。

「やっ…セブルス…ッ!!」

 彼は強引に私から羊皮紙を引ったくると、叩きつけるように机の上にそれを広げた。

「……お前も所詮はあいつらの仲間か」

 私が隠す意味を理解したようだったセブルスは、漆黒の髪の隙間から覗く暗い瞳で私を睨み付けた。

「セブルス、違うの」
「違うことなどない。ルーピンはズル賢い人狼で、ブラックと手を組んでいた。そして貴様はその人狼にほだされた愚か者だ」

 セブルスの目の奥は怒りに燃えているようで、私は身を硬くした。

「友達を悪く言わないで。セブルス、話を聞いて」

「友達だと?人狼がお前をどんな目で見ているか知っているのか?あいつはお前を友達だと思ったことなど一度もないぞ。もっといやらしい目で──」

彼をそんな風に言わないで!!

 私が怒鳴ると、セブルスの足下で水がバシャンッと弾け滴が跳ねた。彼はちらっと自分の足下を見たが、落ち着き払った様子で、舐めるように私を見ると鼻でふんっと笑った。

「好きな男のことでは感情的になるようだな、グリンウォルフ女史」

 彼の言葉に、私は手を振った。
「…お願い、話を聞いて。さっきあなたが見たのは──」

「ルーピンはブラックを手引きしている。そしてお前もそれに協力している。この地図で…」

「そうじゃないの!ピーターは死んでいなかった!シリウスももしかしたら…!!」
「十分だ、グリンウォルフ」

 セブルスはローブから杖を抜くと構えた。

「セブルス、落ち着いて。」
 私は一歩下がりながらローブの中の杖に触れた。

「君こそ、我輩を攻撃できるのか?“友達”を──」

「あなたを攻撃なんてしないわ」
「お優しいグリンウォルフ。お前は昔からそうやって親切ぶる」

 杖先を私から逸らさず、セブルスは揶揄するように笑った。

「ねぇセブルス、私たちは何か大きな勘違いをしてるかもしれな──」

「グリンウォルフ、君の腕はよく知っているつもりだ。しかし──」

 セブルスと私はほとんど同時に杖を振った。

「“友達”が絡むと動きが鈍い。それが最大の弱点だ」

 セブルスの言葉と同時に杖から出た光線が私を打った。セブルスの方がわずかに早く、私の攻撃は彼をわずかにかすめただけだった。
光線に弾き飛ばされた私は、壁に思い切り体を打ち付け崩れ落ちた。

 体が言うことを聞かず、視界がぼやけていく私の傍らにセブルスがゆっくりと歩み寄り、何事か囁いたが彼がドアの方を向く前に私はそこで意識を手放した──。




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