狼夢化録

□彼女のこと
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 隠れ穴でのある日。
ロンと庭小人の駆除を終えて台所に戻ると、ウィーズリーおばさんとお茶を飲みながらお喋りをしている彼女がいた。

「ハリー、ロン」

 僕たちに気付くと、彼女は話をやめ持っていたティーカップを置いて笑顔を向けた。

「セルシア」

 僕が声をかけると、彼女は椅子から立ち上がり僕らの所へ手を伸ばしながら駆け寄って来たが、途中でぴたりと動きを止めた。

「挨拶の前に手を洗わないとね」

 そう言われ自分の手に目をやると、その手は爪の中まで土が入り、庭小人に噛み付かれた痕がいくつもついていて、お世辞にも綺麗な状態ではなかった。

「さあさあ二人とも!手を洗ったらお茶になさい。セルシアがマフィンを焼いてきてくれたのよ」

 ウィーズリーおばさんのその一言にロンが真っ先に反応した。

「やったね!僕が一番好きなやつだ!」

 そう言いながら、すでにロンは手を洗い始めていたので僕も慌てて彼に続く。

ロンと押し合いへし合いしながら手を洗っている間に、再びセルシアはウィーズリーおばさんと何か話し始めた。

 僕たちが手を洗い終えると、改めてセルシアは僕とロンを抱きしめた。

「元気そうで何よりだわ」

 セルシアの優しい笑顔に僕はいつも気恥ずかしさを覚える。横にいるロンは、耳が自分の髪と同じ色になっていた。

「モリー、私そろそろ行くわね。お茶ありがとう」

 セルシアが杖を振ると、綺麗になったカップが棚に戻っていく。

「またいらっしゃい。色々……気を付けて

 ぽつりと付け足したウィーズリーおばさんの言葉が気になったが、セルシアはにこりと微笑み、マントを羽織りながら戸口に向かう。

「じゃあまたね、ハリー」
「あ、うん。マフィンありがとうセルシア」
「早く食べないとなくなるわよ」
「え?」

 セルシアにそう言われ振り向くと、ロンがいくつ目かのマフィンに食い付いていた。

ロン!!

 僕が叫ぶと同時に、背中でパチンと音がした。振り返っても戸口に彼女の姿はなかった。



「セルシアはさぁ、お菓子作りの天才だよな」

 ようやくお腹が満たされたのか、お茶をすすりながらロンが言った。

僕も何とかマフィンにありつくことができ、それを味わっている。

「マグル式のお菓子作りを今度ジニーが教えてもらうって言ってた。ハーマイオニーたちと料理教室をするんだってさ」

 ロンが語るのを、僕はお茶を飲みながらうんうんと頷いた。

「セルシアはハリーのお母さんみたいだよな」

 ロンが呟いたその一言に、僕はどきりとする。

そんな僕に気付く様子もなくロンは続けた。

「セルシアがシリウスと結婚すればいいのに、って思ってたんだ。そうすれば、その……君と一緒に三人で暮らせるのにな……って」

 僕の母さんと親友だった彼女。

 彼女に抱きしめられるといつも思う。

 母さんてこんな感じなのかな、って。

ウィーズリーおばさんも僕にとっては母親のような存在だけど、ロンたちと、家族と一緒にいる光景を見ると我に返る。

セルシアが僕のお母さん……。

 考えたこともなかった。

 いや。

 考えたけど、打ち消していたのかもしれない。

ダーズリー家に不死鳥の騎士団の皆が迎えに来た時。
トンクスたち先発護衛隊の好奇の目がようやく自分から離れた後、少し恥ずかしそうに僕の横に来て、嬉しそうに微笑みかけてきたんだ。

「また会えて嬉しいわ。こんなに大きくなって」

 母さんや父さんの同級生で、純血の魔女なのにマグルのことにも詳しい。
何とか……っていう魔法の研究所に勤めていると聞いたけど。
でも、それ以外に僕はセルシアのことをよく知らない。

彼女も、母さんや父さんたちと学生時代を過ごし、シリウスやルーピンたちと暗い暗黒の時代を生きて来たんだ。

ロンがチャドリー・キャノンズについて熱っぽく語っている横で、そんなことをぼんやり考えていた。







リリーの女友達に当たるような親世代キャラって原作にいなかったな、と思いこんなポジションに。

次回、ヒロインの学生時代から話が始まっていきます。

4/Mar./2011

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