狼夢化録

□chapter6:進路
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 湖での事件後、私とリーマスはびっくりするくらい仲良くなれた。

 ようやく友達になることができたのだ。リーマスは私を見つけると挨拶したり、話しかけてくれた。

私もそのお陰で、以前よりはずっと気軽に彼と接触することができるようになった。
それを見たリリーは私をからかったが、それもひっくるめて嬉しかった。

 ジェームズとシリウスはこちらを見ることはあっても、何かを仕掛けてくることはなかった。
リーマスが言っていた通り、彼らは湖に自分たちを落とした犯人を私でない誰かと思っているのだろう。

本当のことを知っているはずのリーマスが、彼らに何も言わないでいてくれているかと思うと、
2人だけの素敵な秘密を持ったような気分になって、また顔が赤くなった。


 そんなリーマスと仲良くなってから、図書館で一緒に勉強する機会も増えた。
場所は決まって一番最初に勉強会をした、図書館奥の目立たない席だった。
そこで私たちは課題をしたり、こっそりチョコの包みを開けつつ、お喋りを楽しんだりした。


「マグル学を取っている生徒が少ないと思わない?みんな興味ないのかしら」
 
 私は『杖を使わない!マグル的お菓子作り』のページをパラパラと捲りながら、隣のリーマスに言った。
「魔法を使わなくてもマグルは私たちと同じようにこんな美味しそうにスコーンやパイを焼くのよ」

「純血主義うんぬんとか、スクイブやマグルに対する偏見が魔法界にはまだまだ多いんだろうね」
 リーマスは今さっき書き上がったマグル学のレポートを読み直しながらのんびり答えた。

「リリーは『魔法的視点からマグルのことを勉強するのは面白い』って言ってた。魔法族の人もリリーを見習うべきだわ!」

「エヴァンズよりもセルシアを見習うべきだと思うけどね」
 羊皮紙から顔を上げると、リーマスは私を見てクスクス笑った。

「君の家はいわゆる『純血』だろう?マグルに理解があるのはすごいことじゃないか」

 リーマスが妙に真面目にコメントするので私は顔が熱くなるのを感じた。

「理解があるっていうか…私、2年生の時に初めてリリーの家に遊びに行ったの。『電話』のかけ方やマグル式の料理の作り方を教わったりして…。
マグルの生活がとっても楽しかったの。それで興味が出たっていうか…」

「セルシアはマグル学の成績も良いし、先生になれるかもね。『グリンウォルフ先生』」

「そんなこと!」
 仲良くなってしばらく経つが、リーマスの笑顔が側にあることに私はまだ慣れず顔を熱くさせた。

「私はリーマスの方が先生に向いてると思うわ。優しいし、教え方上手だし…きっと人気の『ルーピン先生』になっちゃうわよ」

「僕は……」
 私の言葉を聞くとリーマスが静かになってしまった。そうして俯くとまた自分のレポートをじっと見た。

「…将来のことはわからないよ」


 ごめんね、リーマス。でもあの時私は本当にそう思ったのよ――。


* * * * *

「セルシア、セルシア!」

 自分の机でウトウトしていたら、誰かが私を揺さぶった。

「んあ?」

 急に現実に引き戻され、ぼんやりしていると、部下のアールヴが苦笑いで私を見下ろしていた。
ここは私の職場、源素魔術研究機関――。

「手紙です。ホグワーツから」
 そう言ってアールヴは封書を私に手渡す。
「あ…ありがとう」
 アールヴに寝ぼけた笑顔を返すと、彼女はクスクス笑いながら美しい金髪を翻して部屋を出て行った。

 手紙を見てみると、私がこの手紙を読んだ30分後にダンブルドアがここに来る、という内容だった。
私は椅子から立ち上がると、急いでトフィーを買いに出かける支度をした。

* *


「これはこれは」
 ダンブルドアは嬉しそうにガラスのポットに入ったトフィーをひとつ手に取った。
「セルシアのこういう気のつく所にわしは弱くてな」

無邪気なダンブルドアの様子に私も思わず笑みがこぼれる。紅茶の入ったカップを彼の前に置いた。

「直にあなたがこちらに来られるなんて珍しいですね。…何か深刻な事態が?」

 私は眉を寄せダンブルドアの向かいに座った。しかしダンブルドアは片手を軽く上げ、優しく微笑んだ。

「君を不安にさせるつもりはなかったのじゃよ。今日はお願いがあっての。大切なことじゃから直接お邪魔してみた次第じゃ」

「お願い…?」
 ダンブルドアののんびりした口調が、私を余計不安にさせた。ダンブルドアは頷くと、再びトフィーのポットに手を伸ばした。

「9月から、報告書を直接わしの部屋まで持ってきてはくれないかね」

 あまりにも単純な依頼に、私は肩に入っていた力をふーっと抜いた。そんなことでわざわざ?

「あの…報告書に何か問題があったのでしょうか?確かにここ最近ゴブリンやケンタウルスとの交流に進展はありませんが…」
「いやいやいや」

 あくまでもゆったり、ダンブルドアは私の言葉を制した。

「実はしばらく前にリーマスに会っての。少し話をしたのじゃよ」

 急に出てきた彼の名前にどきりとする――。ここ最近、いやここ何年か彼との直接的な接触は、ダンブルドアに呼び出された騎士団の会合で集まる時がほとんどで、
“あの一件”以来、プライベートで会うことは、お互い何となく控えるようになってしまった。

「…リーマスは元気ですか」

「まぁ健康な状態とは言い難いが、元気にしておるよ」

「そうですか」私はほっとした。
 彼からその言葉が聞けると、他の人の口から聞くより何倍も安心できる。ダンブルドアは、ホグワーツを卒業してからもリーマスを気にかけてくれている。


「今年から、『闇の魔術に対する防衛術』の教師にと思ってのう。手紙を出したばかりじゃから彼からの返事はまだだが、受けてくれればと思っておる」

 『闇の魔術に対する防衛術』の先生!?急な朗報に喜びと驚きが私の体中を駆け巡った。

「素敵!リーマスなら絶対受けてくれますわ!『闇の魔術に対する防衛術』なら、学生時代得意だったし…とてもいい先生になると私は思います!」
 私は興奮を抑えられず、勢いよくダンブルドアに喋った。ダンブルドアは目を細め、頷いた。

「もちろん、わしもそう思っておる」

 ホグワーツの先生になるなんて!リーマスがちゃんとした職に就けることも嬉しかったし、どんな先生になるかしら、と好奇心でわくわくした。
今ホグワーツにはセブルスも先生としているけど、仲良くできるかしら?ああ、見に行きたい!!でもひとつ気になることが。

「でも…彼の体質のことは大丈夫なんですか?その…人狼のことですが

 そう、唯一の気がかり。それはリーマスが人狼であること。いくらリーマスといえども、狼に変身した状態は周囲の人間には危険だ。
学生が大勢いる学校で生活していくことは、私でもいくらかの不安がある。学生時代とは違う、教師としてホグワーツに滞在するのだから、もし何かあっても罰則じゃあ済まされない。


「さすがに満月の前後は授業を休まざるを得ないかもしれんの。しかしセブルスに脱狼薬の調合を頼むつもりじゃ。薬があれば、あとは部屋でじっと休んでいれば問題ない」

 ダンブルドアは少しも困った様子を見せず、その長い髭を撫でた。

「そう…ですか!」
 セブルスならきっと引き受けてくれる!私は心底安心して椅子に深々と座り直した。

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