狼夢化録
□chapter10:愛されるべき男の子
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リリーとジェームズが結婚して1年ほどして、ついに赤ちゃんが生まれた。もうジェームズにとっては待ってましたと言わんばかりの、待望のベイビーだった。
リーマスと話し合って、新婚さんの邪魔をしてはいけないと、私たちは以前ほど彼らに会うこともしていなかったので、ゴドリックの谷を訪問することはとても楽しみだった。
「本当に楽しみだわ!!」
「セルシア、その台詞ここに来るまでで4回目なんだけど」
私の隣では、リーマスが苦笑いをしつつ冷静にツッ込んできた。
「だって本当のことじゃない!久しぶりにリリーに会えるのよ!そして赤ちゃん!」
「ジェームズも忘れないであげて」
「あっ」と私は声を漏らしたが、リーマスは聞こえないフリをしていた。
ポッター夫妻の住んでいる家は可愛らしい家だった。白い壁、花が咲いている綺麗な庭。2人がここで暮らしているのかと思うと、自然と笑みがこぼれた。
そういえば、リリーからの手紙に魔法史研究者の…バチルダ・バグショットもこの谷に住んでるってあったけど…この近所なのかしら?
なんて考えながら家の周りをキョロキョロしているうちに、リーマスはすたすたとドアの方に向かってしまった。
ドアの脇にも小さな鉢植えがいくつか置かれていて、綺麗なペチュニアの鉢植えの間から真っ白な鹿の置物が顔を出している。
リーマスは杖を取り出すと、杖の先で鹿の頭をコツコツ叩いた。すると鹿の置物は、2度ほど首を振ると、その陶器製の大きな瞳をこちらに向けて喋り出した。
「リーマス、セルシア!いらっしゃい!」リリーの声だ。
「リリー!お招きありがとう」
私は鹿の頭を撫でた。
「プロングズ、リリー、おめでとう」
リーマスも、私の横から鹿に話しかけた。
「今行くからどうぞ入って!」
久しぶりに聞くリリーの明るい声に、私は心躍った。
「セルシア!!」
「リリー!!」
玄関に入るとすぐにリリーが迎えてくれた。アーモンド形の瞳を輝かせ、私に飛びついたリリーを私はぎゅっと抱き締めた。
「出産おめでとう、リリー!」
「ありがとう、嬉しいわ!」
「やあ、ムーニー。久しぶりだね!」
私とリリーが抱き合って再会を喜んでいると、ジェームズが2階から降りてきた。ハシバミ色の髪の毛は、相変わらずあちこちを向いていて、色々大変なことになっていた。
「リリー!ベイビー・ポッターはどこなの?彼にもご挨拶しなくちゃ」
「さっきお昼寝から覚めたところなの。ご機嫌でお客様をお待ちよ」
そう言うと、リリーは玄関を抜けて、リビングへと私とリーマスを案内した。
「よう、セルシア、ムーニー」
リビングに入ると、黒髪の美しい青年が私たちを迎えた。
「リリー、ずいぶん大きなベイビーなのね」
「それはシリウスだよ、セルシア」
怪訝そうな顔で大きな赤ちゃんを眺めていた私に、すかさずリーマスがツッ込んだ。
「わかってるわよ…」
見るとシリウスの胸元でむにむに動く物体がある。
「わあ、この子だね」
まずリーマスが、シリウスが抱いていた赤ちゃんに歩み寄った。
「紹介するよ。セルシア、リーマス」
ジェームズが、眼鏡をくいと指先で持ち上げながらシリウスの隣に立ち、赤ちゃんの手を取った。
「ハリーだ。ハリー・ポッター」
その時のジェームズの誇らしげな顔は、今までジェームズが見せた中でも一番の表情で、とても素敵だった。
「ハリー」
「ハリー・ポッター」
私は赤ちゃんの名前を繰り返した。リーマスも私の隣で、噛み締めるように名前を復唱した。
「はじめまして、ハリー」
「そしてようこそ」
そう言いながら、私とリーマスはハリーのちっちゃな頬と手にキスをした。
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