狼夢化録

□chapter4:晴れの日に
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 当初1年間の予定だった私のマグル留学は、1年半に延びていた。

 ダンブルドアから、定期的に報告書を書くことを指示された私だったが、
私自身、マグルの暮らしが退屈だったり窮屈に感じたりしなかったこともあって私は大歓迎だった。

 そんなある日、嬉しい知らせが舞い込んできた。

「ついにこの日が来たのね!」

 リリーとジェームズから、結婚するという知らせが送られてきたのだ。

マグルの郵便で送られてきて、ちゃんと届いたということは、おそらくリリーがこの手紙を作ったのだろう。
それと同時に、ふくろうで「ジェームズとリリーがついに結婚だ!」という内容の手紙がシリウスから届いた。


「いよいよね!やっとこの日が来たのよ、シリウス!!」
 私はシリウスからの手紙を読みながら叫んだ。

* * * * *


「マッド‐アイ!私、変じゃない?!ちゃんと見て!」

 真っ白なウェディングドレスのリリーが「写真を撮るわよ!」と、向こうから呼んだものだから私は大慌てで隣にいたマッド‐アイに飛びついた。

「ふん、そんなにフワフワした格好で、もし敵が来たらどうするつもりだ!わしが昔、友人のパーティーに招かれた時には…」

「こっちだって戦いよ!私だって戦ってるのよ、お願いっ!」
 彼の長い話が始まりそうだったので慌てて止めた。
そしてもう一度、ちゃんと変なところがないか見て!と言わんばかりに両手を大きく広げた。

 マッド‐アイはフン、と鼻で笑いながらも魔法の目をクルクル回した。
こんな大事な日に写真を撮るんですもの、360度ちゃんと見てもらわないと。

 もし髪型が変だったり、ドレスがほつれていたりしたら大変だもの。

「どう!?マッド‐アイ」 私はせかすような口調で言った。

「ふん、お前にしてはうまく化けたな」彼はめんどくさそうにもう一度魔法の目を回した。

「それは褒めているってこと?」私は口を尖らせた。

「そんなくたびれた格好は、リーマスとならお似合いかもしれんな!」

 杖で地面をひと突きすると、マッド‐アイはアーサーとハグリッドのほうへ歩いていってしまった。

 褒めてるのか、けなしているのか微妙な所だったけれど、「リーマスとお似合い」なら私には上出来だった。
 

「セルシア!早く!」

 リリーが丘の上でブンブンと手を振っている。

 隣にいるジェームズがうわの空なのがここからでもよくわかる。今日一日、ジェームズのこの姿しか見ていない。

「今行く!」

 髪のチェックがまだ終わっていなかったが、リリー、ジェームズ、シリウス、ピーター、リーマスのいる所へ駆け出した。


「遅いぞセルシア。何してたんだよ」げんなりした表情でシリウスが言った。

「女性は色々大変なのよ」 私はまだ自分のはねた髪を気にしながら答えた。

 リーマスを見ると、緑がかった暗い青のスーツを着ている。
式が始まる前、スーツは格好良かったのだが、着ていたローブは確かに、マッド‐アイの言った通り、くたびれていたので
(というか、所々ほつれていたり穴が開いたりしていたので)、シリウスと慌てて魔法で直した。

 髪の毛も整えていなかったので私が直したんだから!それでリーマスは式が始まる前よりも、もっとずっと格好良くなっていて、素敵だった。


「シリウスはジェームズの隣、セルシアはリリーの隣ね」

 カメラを持ったモリーが、テキパキと私たちに指示した。
リリーの隣に並ぶと、お互い顔を見合わせて、ふふふと笑い合った。

「…そう、ピーターはシリウスと並んで。リーマスはセルシアの隣よ」
 モリーは何度もカメラをのぞきながら、入念にアングルを決めようとしていた。

「セルシア、髪すっごいはねてるよ」

 隣に立ったリーマスがおもむろにそう言った。

ええっ?やっぱり!もうやだ!変でしょう?」

 隣にリーマスがいてただでさえ緊張しているのに、私は恥ずかしくて、何度も髪を押さえつけてまっすぐにしようとした。
でもリーマスは面白そうにくすくす笑っている。

「変じゃないよ。セルシアらしくて面白いよ」

「可愛いわけではないのね」
 私は諦めて髪を押さえていた手を離しながら言った。
 
「『髪がはねてる』って言うと、いつも慌てるから面白いよね」
「ぜひそこはチャームポイントと捉えてもらえるとありがたいわ」
 私は彼を見上げた。

「リーマス、前髪もう少し上げたほうがいいんじゃない?ハンサムな顔をもっと見せなきゃ」
 そう言って、私は前髪を上げる仕草をした。

「ハンサムってのはシリウスみたいな奴を言うんだよ、セルシア」
 リーマスは苦笑い。

「シリウスのハンサムは嫌味っぽいからダメよ」

「聞こえてるぞ!」シリウスがジェームズの隣から顔だけこちらにのぞかせた。

 今日のリーマスは、満月から離れていることもあって、顔の血色がいい。

結婚式の準備やらで、ここ最近顔を合わせることも多かったので、一緒に食事をしたりもした。
そのせいか、いつもより健康そうで元気そうだった。この状態で写真を残さなきゃもったいない!

「とにかく、せっかくの写真なんだからもっと顔出したほうがいいわよ」

 「そうかな?」とリーマスは自分の前髪を撫で上げた。 


  ―ああ、大好きよ。
 あなたといるだけでこんなにも楽しく、苦しい。


「こんな感じでいいかな」
「素敵よ。私は?変じゃない?」髪がはねてる以外で、と付け足した。

「素敵なお召し物でございますよ、レディ」リーマスは少し意地悪そうに微笑んだ。

「ドレスは、素敵なのね」
「大丈夫。可愛いよ」

 ―その言葉があなたの本心だったらどんなに嬉しいか。
その言葉を、笑顔を私にだけ向けてくれたらどんなに嬉しいか。
私が、そんなことを考えては打ち消していたことを、あなたは知らないのね。

「ありがとう」

 私はそう言うと、リーマスと顔を見合わせお互いにやりと笑った。


「さあ、撮るわよ!!絶対素敵な写真になるわ!」

 ようやくアングルを決めたモリーが意気揚々と、声高に叫んだ。



 今でもこの写真は私の一番のお気に入り。
リーマスと隣同士で写っている数少ない写真のひとつで、私の宝物。





短くてすみません。本来ここは色々書きたい所です。
ここでのお話はまた後日別の人物視点で書きたいと思います。

17/Apr./2011

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