狼夢化録
□chapter7:蒼か、青か
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君はリリーみたいに華やかでない、と気にしているみたいだけど、
真面目で、明るくて、楽しくて、君が笑ってるとこっちも嬉しくなってしまう。
たまに気性の激しい時もあるのがちょっと意外。
でもそれは君の中の正義が強いからなんだね。
あの頃は気付きもしなかった――。
* * * * *
ジェームズとリリーの結婚式当日。チャペルに到着し辺りを見回すと、入り口の前でセルシアとシリウスが話しているのが見えた。
セルシアは淡いグリーンのドレス、シリウスは明るいグレーのスーツにお洒落な黒のローブだった。
「おはよう!リーマス」
彼らのほうに近付いて行くと、セルシアが僕に気付き、満面の笑顔で手を振りながら駆け寄ってきた。
「おはよう、セルシア」
僕は彼女たちほど華やかではないので少し気が引けた。笑顔が引きつっていないか気になった。
「リーマスすっごく素敵よ!」
セルシアは開口一番こう言った。そこにシリウスも寄ってきた。
「よぅ、リーマス」
相変わらずさらりとした黒髪が真似できないカッコよさで目の辺りにかかっている。
「やぁ、シリウス」
「やっぱりリーマスはこの色が似合うわ。私が言った通りでしょう!?ほら、シリウス!!」
セルシアは僕の前でパチンと両手を合わせると、嬉しそうにシリウスの袖を引っ張った。
シリウスは同意してるのかしてないのか、苦笑いをしながら「うんうん」と頷いた。
「うわー、リーマス素敵よ。とっても似合うわ!!」
「セルシアの仕立てのおかげだよ」
セルシアが噛み締めるようにもう一度言うものだから、僕は頬が熱くなった。
新しいスーツを買うには僕の経済状況は厳しく、結婚式に何を着ていくかセルシアと話していたら、彼女の父親が若い時に着ていたスーツを譲ると言うので、僕はそれを貰い受けた。
一度彼女の家でそのスーツを試着してみただけなのだが、数日後ふくろう便で送られてきたスーツは、その時試着したものとは思えぬほど綺麗に仕立て直されていた。
「直接渡せなくてごめんなさい。どうしても研究所からの課題を片付けなきゃならなくて…。間に合いそうになかったから、ふくろうで送ってしまったんだけど」
スーツが送られてきた時に、同じ内容の手紙が添えられていたのを思い出す。彼女の丁寧な気持ちが素直に嬉しかった。
「ちっとも構わないさ。こんなにぴったりなスーツは今まで着たことないよ。大事にするよ、ありがとう」
「よかった」とセルシアは微笑んだので僕も自然と微笑み返す。
「2人とも、イチャイチャしてるところ悪いんだけど」
今まで静かにセルシアの横にいたシリウスが口を挟んだ。
僕とセルシアは彼のほうを見た。…イチャイチャ?
「スーツは確かに似合ってる。でも、これは直しといたほうがいいと思うぞ」
「え?」と僕らはシリウスの指差す箇所を見た。それは僕のローブで。
腰の辺りに、ガリオン金貨サイズの穴が開いていた…。
ついでにところどころほつれているし、お世辞にも綺麗なローブとは言い難かった。
「ちょ…リーマス!ここ、ほつれてる!」
「いや、これほつれてるとかの問題じゃないから、セルシア」
驚くセルシアにすかさずツッ込むシリウス。
「急いで直さなきゃ!!ああ、私ローブのことにまで気が回ってなかったわ!ごめんなさい、リーマス!」
セルシアはオロオロとしながら自分の頬をぴしゃりと軽く打った。
「いや、ローブは大丈夫かなと思ってて…僕が気にしてなかったのがいけないんだから」
彼女は昔からこういう傾向がある。他人のことを自分のことのように喜んだり悲しんだり。他人のミスすら自分のことのように慌てふためく。
そんなセルシアが僕は心配でもあった。
「はっ!!よく見たらリーマス、髪の毛ボサボサじゃない!」
オロオロしていたセルシアだったがぴたりと止まり、僕の頭に目をやった。うーん、実はよくわからなくてちゃんと整えてこなかったんだ…やっぱりダメでしたか。
「確かに、も少し直したほうがいいかもな」シリウスが気楽そうに付け足した。
「急いで直さなきゃ!!」
言うが早いかセルシアが僕の腕を掴むと物凄いスピードで走り出したものだから、僕は危うく舌を噛むところだった。
慌ててシリウスも僕らの後を追って走り出した。
セルシアは怖ろしい速さでチャペルの横を駆け抜け、新郎新婦の控え室のある建物に突進していった。
後ろでシリウスが「待て」とか何とか言っているのが聞こえた。
建物に入り、ずんずん奥に進むと古めかしい木の扉の部屋が1つ。セルシアがノックすると、聞き慣れた声が中から聞こえた。
「ジェームズ、ごめんなさい!ちょっと場所借りるわよ」
中に入るとそこにはタキシード姿のジェームズが。突然の珍客に目を丸くしている。
「あれっ、セルシア?リーマス?何、どうしたの?」
「はい、リーマス、ここに座って」セルシアは僕を窓の側にあった椅子に座らせた。
「髪がほつれていて、ローブがボサボサで、直したいのよ。少しいさせてね」
セルシアがジェームズに笑いかける。でも言ってることが何だかわけわからない。
「よくわからないけど別に僕は構わないよ」ジェームズは気にしてないようだった。
「…セルシア、早すぎ」
声のするほうを見ると、開いたドアの前で、シリウスが肩で息をしながらノックする真似をした。
あのシリウスが「早い」と言うのだから、僕らは相当な速さで移動していたのだろう…。
「だって…式の時間に間に合わないと困るじゃない!」
セルシアは本当に慌てていたのだろう。何だか申し訳なさが込み上げた…。
「おやおやムーニー、本当に髪が乱れているね。それは確かに直したほうがいいかもね!」
ジェームズはセルシアの横に立つと、ずれた眼鏡をくいっと持ち上げた。
「いや…確かに乱れてはいたんだけど…半分以上は今走ってきたせいだと思うよ…」
僕は呼吸を落ち着けながらそう言うと、セルシアはちょっと頬を赤らめて「ごめんなさい」と小さい声で謝った。
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