狼夢化録
□chapter13:机上の再会
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「一年間お疲れ様ー!」
「その挨拶はまだ早いんじゃない?」
「だって試験も終わったし、ね?」
6月、久しぶりにリーマスの部屋を訪問した私は、喜びを隠しきれず、やけにニコニコした顔を彼に向けてしまった。
リーマスは期末試験の日程をふくろうで知らせてくれていた。
忙しいだろうから、彼と会うのをしばらく控えていたので、こうして部屋を訪問したのはイースター休暇の時以来だった。
「まだ採点が残ってる。先生って仕事が多いことを初めて知ったよ。マクゴナガルもセブルスも偉いよ、ホント」
リーマスは机の上の羊皮紙から顔を上げて、椅子に座ったまま上半身をうーんと伸ばした。
「採点中だった?」
「いや。ちょっと見張りを、ね」
彼の言っている意味がよくわからず、私はリーマスの事務机まで歩み寄り、隣から羊皮紙を覗き込んだ。
「『忍びの地図』じゃない」
机の上には以前リーマスがハリーから没収した『忍びの地図』が広げられていて、細かい点が地図上をウロウロする様子に再び懐かしさが込み上げた。
「ハリーとその友達を見張ってるんだ」
「どゆこと?」
首を傾げる私に、リーマスはハグリッドのヒッポグリフのことを教えてくれた。
「…それで、ハリーがヒッポグリフのために何かするかもしれないって、あなたは考えてるのね」
「ジェームズよりは大人しいけど、なかなかの向こう見ずだからね」
リーマスは両手を広げて苦笑した。
「私もご一緒させて」
「よろこんで」
私は杖を振ってヤカンを手元に寄せると、紅茶の支度に取りかかった。
リーマスは地図を持ったままソファに移動し、私と並んだ。
しばらくリーマスと2人でハリーの動きを見ていたが、特にこれといった動きはなく、リーマスと他愛ないおしゃべりをしながら地図を眺めるほど余裕があった。
ハリーが『闇の魔術に対する防衛術』の試験で最高の出来だったことをリーマスから聞き、私は上機嫌になったし、私が先日南部の水中人に会いに行った話を、リーマスは興味深そうに聞いてくれた。
そんなのんびりした時間をしばらく過ごした後、夕食の時間になってしまったのでリーマスは大広間に行くことになった。
私は帰ろうと立ち上がったが、リーマスはそれを止め、自分はすぐ戻るし、厨房の屋敷しもべ妖精たちに私の食事を部屋に持ってきてもらうから、ここにいればいいと言ってくれた。
「ほら…やっぱり」
「わぁ…」
太陽が沈みかけ、部屋の中が金色に輝き始めた夕食後、リーマスの予想は的中。玄関ホールの隅にある小部屋を出ていくハリー、ロン、ハーマイオニーの名前を私たちは見下ろした。
「さすがジェームズの息子。お尋ね者に出くわすかもしれない、この状況でも外出しようとするとは!」
私が唸ると、隣のリーマスは小さく笑った。
「あまり褒められたことではないね」
「昔の自分を見てるみたい?ムーニー君」
「まあね」
ハリーたちの動きを見守っていると、案の定彼らは校庭に出て、ハグリッドの小屋をまっすぐ目指した。
3人の点は、しばらく小屋の中でハグリッドと一緒に止まっていた。
「あの子たちが城に戻ってきたら、ルーピン先生のお説教タイムかしら」
「そうだね。見逃すわけにはいかない…かな」
リーマスはそう言いながら、めんどくさそうにソファから立ち上がった。
リーマスはそのまま地図を見ながら机に向かい、私はティーセットを片付け、帰る支度でもしようかと思っていた。
「私そろそろ帰るわね。久しぶりに長くお邪魔しちゃって──」
「──セルシア」
「え?」
リーマスの重く、絞り出すような声に私は振り返る。
リーマスは少し青ざめた顔で、こちらへ来るように私に目で合図した。普段と違うただならぬ雰囲気だったので、私は小走りで彼の隣に寄り添い、同じように地図に目を落とした。
「…リーマス、これ…」
「どういうことだ」
私たちが見ていた地図には、ハリー、ロン、ハーマイオニーの点とぴったり一緒に、ピーター・ペティグリューの名前がはっきりと浮かんでいた。
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