狼夢化録

□chapter6:進路
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「それで話を戻すが」

 ダンブルドアは紅茶を美味しそうに飲むと、たっぷり間を取って再び話し始めた。
「セルシア、君の書いてくれる報告書は素晴らしいものじゃ。だからこそ、直にわしの所に持ってきてはくれないかね」

 私はダンブルドアの真意を理解しきれず、何と返事したものか躊躇しているとダンブルドアは悪戯っ子のような目をした。

「ミネルバにポモーナ、セブルス。それに――リーマス。君のこれまでの非魔法使いとの接触は、他の先生方も詳しく知りたいと思うような貴重な体験じゃ。」

「…アルバス…それは…」
 ダンブルドアの言いたいことをようやく理解した私は、口を開けて呆然と彼を見つめた。

「教職員からの希望があれば、君の報告書を彼らにも手渡してもらいたい」
 ダンブルドアは私に向けてウィンクをひとつした。

「9月から、報告書をまずわしの部屋に」

「は…はい!喜んで伺います!!」
 
 リーマスに会える。しかも定期的にホグワーツに行けるなんて…!久しぶりの母校訪問に自然と心が躍る。

「わしもホグワーツで君に会えるのを楽しみにしておるよ」
「ありがとうございます…!!」

 私は両手を胸の前で組んで、ただダンブルドアにお礼を言うことしかできなかった。ダンブルドアは目を細めて私を見た。


「君はリーマスを愛しているんだね」
 
「…はい」

 彼の前なら素直に言える。――何でも口をついて出てきてしまいそう。
 
「愛してるが故に彼と一緒にならないと誓った。君のその決意はとても強いものじゃ。しかしその心はあまりにも弱い」

「―――……」

「セルシア、君には愛する者と一緒にいるからこそ得られる強さを、いつか身に付けてほしいとわしは願っておるよ」

 最後のトフィーをつまむと、「また来るよ」と、ダンブルドアはあっという間に目の前から姿を消してしまった。

私はテーブルに残されたまま、しばらく動けなかった。

* * * * *



“ セルシア・グリンウォルフ様

 久しぶり、手紙ありがとう。君が一番に祝いの言葉をくれて、本当に嬉しいよ。
ダンブルドアにはさっき『お受けします』と返事を出したところだよ。

 僕の体質のことは、もちろんダンブルドアは了承済みで、脱狼薬の調合をセブルスが承知してくれたそうだよ。
本当にダンブルドアには感謝してもしきれないよね。だって危険な獣を教師として招こうっていうんだから。
こんな無謀なこと、彼じゃなければできないよ。

それにセブルスも。学生時代、僕ら悪戯仕掛人とセブルスとの関係は決して良いとは言えないものだったのに、彼は毎月の薬の調合を引き受けてくれたのだから、彼にも感謝しないと。

 生徒たちに人狼だということを隠して生活するのは心苦しいけど、僕は自分が知り得る限りの知識を彼らに伝えたいと思っている。
 
 そういえば、5年生の時(6年生だったかな)に、僕は教師に向いてるって君が言ったのを覚えてる?
ダンブルドアから依頼が来た時、そのことが真っ先に頭に浮かんだんだ。君の言っていたことが本当になっちゃったと思ったら何だか可笑しかった。
セルシア、君の見る目は確かだったね!

 あ、手紙にあったけど君も仕事でホグワーツに来るんだって!?来る時は是非知らせてほしい。その時は僕の部屋でお茶でも飲んでいってよ。

シリウスのことがあってからあまり一緒にいる機会がなくなってしまったから…久しぶりにセルシアとゆっくり話せたらと思っています。

 これから授業やホグワーツで生活するための準備をしないと。君が昔くれたスーツがあるだろう?リリーとジェームズの結婚式の時に譲ってくれたあれを着て行くつもりだよ。今でも大事な一張羅だ。

じゃ、またね。

  リーマス・J・ルーピンより”


 書き終えたばかりの手紙をセルシアのふくろうに託すと、嬉しそうにホーと鳴いてから飛び立っていった。

 セルシアから久しぶりに手紙が来た。僕がホグワーツの教師になったことを喜ぶその内容は、「おめでとう」と何度も書いてあって思わず顔がほころんだ。

12年前、シリウスが僕たちを裏切ってアズカバンに送られてから、セルシアとの関係もなんとなくギクシャクしてしまっていた。
以前はお互いの家で食事したり、朝まで飲み明かす、なんてこともたまにしてたけど、例の一件以来、そういうことはほとんどなくなった。

もしかしたらまだスパイが残っているかもしれない――それは目の前の旧友かもしれない。僕らがそう思っていることは明白だったがお互い口にはしなかった。
いや、少なくとも僕は“できなかった”。
それを言った途端、僕とセルシアの関係は一生、元の友達には戻れない気がした。

 リリーとジェームズに続いてピーター、シリウスを失った今、僕の友達はセルシアだけだ。


彼女だけは、失いたくない。


たとえ“友達”だったとしても…。



無意識に手に力が入っていたことに気付いて、僕は頭を軽く振って気持ちを入れ替えるよう自分に言い聞かせた。
これはダンブルドアが僕たちにくれたチャンスかもしれない。

ホグワーツでセルシアに会って話す時間ができたら……。また学生時代のような関係に戻れるかもしれない。

そんな淡い期待を振り払えぬまま、新学期に向けての支度をしようと部屋を出た。

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