狼夢化録

□chapter3:バイクとブルーベリージャム
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「リーマスは…。あーリーマスも連絡取ってないな…」

「そうなの…」
 セルシアは今日一番声を落として椅子に座り直した。

「だけど先月かな、ダンブルドアが近々俺たちを召集するかもしれない、みたいな手紙が来たぞ」
「それは私にも来たわ」

 セルシアは、気のせいか少し怒ったような声になった。

「あとは…セルシアのことが書かれてた」
えっ
 急にセルシアが身を乗り出してきた。その勢いでテーブルがガタンと揺れ、カップに入った紅茶が溢れそうになった。

「前にここに来た時食ったガトーショコラがうまかったって」

「……それ私のことじゃないし」

「だって作ったのお前だろ?」
「そうだけど…」
 セルシアのくせっ毛が彼女と一緒にしょんぼり揺れたのが俺は少し面白かった。


「リーマスのことが気になるか?」
「え?ど、どうして?」
「セルシアはリーマスの話になると顔が変わるから」

「それって変な顔?」
 セルシアは不安そうな顔をした。ツッ込むとこはそこじゃない気がするんだが。

「まぁね」別に変だと思ったことはないけど、面白そうだからそう言い返してみた。

「えー…もともと変な顔なのよ。別にリーマスだから、とかじゃないわ」
 彼女は少しむくれたような顔をすると、片手を伸ばし、ブルーベリージャムを取り、スコーンに塗った。

 セルシアはリーマスのことが好きなんだ。

 学生時代、彼女やリリーと知り合った頃はあまり気にならなかったが、卒業を控えた頃にようやく、うっすらとだけど、それに気付いた。

 割と控えめなほうだが、根は明るいセルシア。仲良くなってから俺やジェームズともよく喋ったり遊んだりはする。

 でも、彼女がリーマスといる時は――。
態度が違うわけではないが、どことなく緊張した面持ちで、言葉を選びながら話をしている感じがした。

 それでなんとなく。

「リーマスはセルシアと付き合ってみればいいと思うんだけどな」
 そう言いながら、紅茶を啜り、セルシアを見ると本当に面白い顔になった彼女がこっちを見た。


「は?ど、ど、どういうこと?

「いや、なんとなく。似合うかなと思って」
 そっけなく返事をしたが、俺は本当にそう思ってた。

 リーマスが人狼であることを知ったあとも、セルシアはリーマスに対する態度を変えたりしなかったし、
満月の前後はリーマスにとても気を遣っていた。

 リーマスの奴も嫌がるような素振りは見せないし、あいつもセルシアといる時は、俺たちといる時と違う表情をしている気がしたから。
好き…かどうかはわからないけど、リーマスだってまんざらじゃあないはずだ。

「そ、そういうのはリーマスに悪いわよ。当人の意思関係なくそんなこと言っちゃ…」
 セルシアの顔が赤く見えたのは、窓からの日差しが当たっているせい…ではないと思う。

「そんなまじめに答えるなって」
 その時の彼女の顔が可笑しくて、思わず吹き出してしまった。
 
「悪い冗談だわ」
 セルシアはぐわっとスコーンをかじる。普段大人しい割には食べる時は結構豪快だ。
 
スコーンから口を離したセルシア。その口の端にブルーベリージャムが。


 その時何を思ったのか。



 俺は黙ったまま少し身を乗り出すと、右手でセルシアの頬に触れた。


 そして親指で彼女の下唇のラインをなぞりながら、口端に付いていたジャムを掬った。

「シリウス?…何?」

 白昼夢でも見ていたみたいだ。頭がぼんやりしていたのが急にはっきりと覚醒した。
 
セルシアは不思議そうにこっちを見ている。

 俺は何がしたかったんだ。

「あ…―――ジャムが。ジャムが付いてた」

「あぁ…ありがと」

 セルシアは俺がなぞった箇所に軽く指を当てた。

「…おう」
 何故か自分に少しイラッとした。右手の親指にはジャム。

 俺はそのジャムを舐め取った。






何だか心配で気になってしまうシリウス。
リーマスいなくてすみません。

15/Apr./2011
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