狼夢化録

□chapter8:再会
2ページ/4ページ

 私が鼻息を荒くしていると、反対側からガヤガヤと子供たちの話し声が近付いてきた。振り返るとリーマスを先頭に、生徒たちを従えてこちらに向かってくる。

「あわわわわ…」

 一瞬リーマスと目が合ったような気がしたが、私は慌てて側にあった石像の陰に隠れた。

「さあ、お入り」

 リーマスはドアを開けると、生徒たちがじょろじょろと職員室の中に入っていく。そんなリーマスが幼稚園の先生のようにも見えて、ちょっと可愛いと思ってしまった。

 生徒全員が職員室に入ると、リーマスはドアを閉めた。それを確認すると、私は周囲を見回しそのドアに近付いて、耳を寄せた。

「――このクラスにはネビル・ロングボトムがいる。この子には難しい課題を与えないようご忠告申し上げておこう」

 セブルスが何やらリーマスに棘のある物言いをしているところで、私は耳を澄ませた。

「術の最初の段階で、ネビルに僕のアシスタントを務めてもらいたいと思ってましてね。それに、ネビルはきっと、とてもうまくやってくれると思いますよ」

 久しぶりに聞くリーマスの優しい声に、私の胸が大きく高鳴った。いつもと違う、すました口調に、声を出さないように私は笑った。

すると、突然ドアが開いたのでびっくりして一歩飛び退くと、不機嫌なセブルスが目の前にいた。

「グリンウォルフ女史は聞き耳を立てるのがご趣味か」

 バタンとドアを閉めると、セブルスは私を見下ろした。

「やっ…その…えー…」
グリフィンドール20点減点
「えっ…!そんな、セブルス!!」

 セブルスは吐き捨てるように言うと、私が呼ぶのも聞かず、黒いローブを翻してスタスタと廊下を行ってしまった。

ごめんなさい、グリフィンドールの可愛い後輩たち……!!

 がっくりと膝をついた私だったが、中でリーマスが授業を進める声がするので、ついついそっちに耳が行ってしまった。ゲンキンなものだ。

「ボガートは暗くて狭いところを好む。洋箪笥や、ベッドの下の隙間、流しの下の食器棚など――」

 丁寧な口調で語り出すリーマス。今日の授業はボガートなのね。
大の大人が、職員室のドアに張りついて聞き耳を立てている姿はかなり怪しいとわかっていたが、誰も通らないのをいいことにしばしリーマスと生徒たちのやり取りをドア越しに楽しんだ。

* *


「せ、セブルスのあの格好……っ!!」

 授業が終わる直前、私は先にリーマスの私室に向かった。
リーマスの授業中、職員室の外から聞き耳を立てていた私だったが、興味をそそられついに少しドアを開けて中の様子を探ってしまった。

 洋箪笥から出てきたセブルスがとんでもない姿になったのを見て、勢いよく吹き出してしまったが、生徒たちの爆笑の渦でかき消されたと思う。

リーマスの部屋に向かう途中、何度もそのシーンを思い出してはお腹を抱えて爆笑したいのを堪え、ついには涙まで滲んできた。

リーマスの部屋の前まで来ると、はじめはドアの前でぼんやり待っていたのだが、何人かの生徒がこちらをちらちら見ながら部屋の前を通り過ぎていくことが何度かあり、
鍵が掛かっていなかったのをいいことに、部屋に入って待つことにした。

「うわっ!セルシア!?」

 ほどなくして、背後でドアの開く音とリーマスの驚く声が同時に聞こえて私は振り返った。

「お久しぶり、リーマス!」
「びっくりした…いきなり目の前にいるんだもの」

「勝手に入っちゃってごめんなさい。部屋の前にいたら生徒が通ったから…」

「就任早々ヘンな噂が流れたら大変だ」

 リーマスはくすくす笑いながら、私の両手を握った。  

「セルシア…本当に久しぶりだね」
 
 どちらからともなく私たちは抱き合った。

「会いたかったわ、リーマス」
 久しぶりのリーマスの匂いに胸が熱くなる。体を離すと、リーマスは微笑んで部屋の奥へと私を促した。

「リーマス、前会った時より元気そうに見えるわ」
「ここでは食事には困らないからね」
 リーマスは肩をすくめて、おどけた表情を見せた。

「あ!私、お土産があるの」

 私は自分のバッグの中を探り、リーマスに買ったお菓子と紅茶の缶を取り出した。

「わあ、ありがとう!今ちょうどティーバッグしかなくて…大事に飲むよ」
「そうだと思った!部屋にお客が来て、ティーバッグでしかお茶を出せなかったら先生の威厳がないじゃない?」

「いや、君がくれた紅茶だから客には出さないね」
 にやっと笑うリーマスに、私は頬が熱くなった。口が開いていた気もする。

「そういえば、君さっき職員室の前にいただろう?」
「えっ!!」
「さっき僕が授業で生徒を連れて職員室に行った時、ドアの前にいたでしょ?」
「急いで隠れたのに…」
「隠れていた像から君のはねた髪が見えていたよ」
えぇっ!?

 私は慌てて自分の髪を撫でつけた。が、そんなことでこの髪がおとなしくなってくれるわけがない。
リーマスはそんな私を見ると楽しそうに笑った。

「う・そ。髪が見えたっていうのは嘘。あんなまっすぐな廊下だよ?ただ君の姿を見つけたってだけ」
「なるべく早く隠れたつもりだったんだけど…」

「君の姿なら、どれだけ遠くでもすぐわかる」

 突然真面目な口調になったリーマスに私はどきりとしたが、彼はすぐにいたずらっぽい笑みを浮かべた。

.
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ