種館物語 第8話 「シンのひとこと」
それは、とある朝のこと―――――。
「おはようアスラン!」
「ああ、おはようキラ」
アスランが日課である庭掃除をしているところへ、玄関の戸をガラガラと開けてキラが出てきた。
『キラ!オハヨウ、オハヨウ、グッモーニンッ!』
アスランの足元を跳ねていたハロがジャンプに勢いをつけてキラの方へ跳ねていく。
「おはようハロ。今日も元気だね」
『ゲンキ!ハロ、キョウモゲンキイッパイ!』
『トリィ!』
「あ、トリィもハロにおはようだって」
『オハヨウトリィ!』
ハロがキラの肩にのる鳥型ロボットに返事をした。
トリィはキラがアスランに懇願して作ってもらったキラ専用の愛玩ロボットだ。ハロのように人と会話できたりはしないが、主人であるキラの表情を読み取り、鳴き声や仕草などを細かく変化させることができる、空気の読める鳥だ。
もちろん鳥らしく空を飛ぶこともできる。
アスランにお披露目された時にキラは一目でこのトリィが気に入り、以後、どこへ行くにも連れて歩いているのだ。
「おはようございますアスラン、キラ、ネイビーちゃん」
『ラクス!ラクス!オハヨウ!!』
続いて玄関から姿を見せたのはラクスだった。ラクスがネイビーと呼んだアスランのハロがラクスの方へ跳ねていく。そしてラクスについて飛んでいたピンク色のハロと仲良く一緒に跳ねだした。
ピンク色のハロはトリィと同じく、アスランがラクスのために製作したものだ。アスランのハロと同じように人と会話ができる機能がついている。製作当時に調達できた部品が限られていたため言語学習能力がネイビーよりもやや劣るものの、簡単な日常会話なら支障なくこなせる。
『オハヨウネイビー!』
『オハヨウピンク!!』
「まあ。お二人とも今日も仲が良いですわね」
「おはようラクス!」
「おはようございますラクス。これから大学ですか?」
「はい。行ってまいりますわ」
「ボクもこれから大学なんだ。じゃあ駅までボクと一緒に行こうか?」
「ええ、ぜひ。まいりましょう」
「二人とも気をつけてな」
「うん」
「はい。では行ってまいります」
「行ってきまーす」
キラとラクスがアスランに手を振りながら、それぞれの愛玩ロボットと一緒に種館を出て行く。アスランもふたりに手を振ってそれを見送った。
「………増えてる」
「おおっシン?いつの間に……」
アスランの背後から唐突に声がしたと思って振り向けば、そこにはいつから居たのか、シンが立っていた。シンもこれから学校らしく、制服を着て肩からスポーツバッグを提げている。
シンは大学に向かうキラたちの後姿をじっと見つめながら言った。
「知らないうちに知らないロボットが増えてるし。ハロが増えたのは知ってたけど。キラのあの鳥もアスランが作ったの?」
ちょっとばかし不機嫌に見えなくもない表情を見せたシンに、アスランはめずらしく気がついてしまった。
ロボットがうらやましいのかな?ひょっとして妬いてるのか?
なんてふうに思ったアスランは、
「欲しい?」
と少し意地悪に訊いた。
ロボットが欲しいなんてシンも可愛いところあるんだなーとアスランが心の中で呟いてみれば、横に並んでアスランの顔をじっと見つめてきたシンが応えた。
「いらない。俺はアスランさえいれば、他には何も欲しくない」
「えっ……////」
真顔で言われたアスランは言葉に詰まった。そしてただただ顔が熱くなっていくのを感じた。
「………おま」
暫くシンと見つめ合ったアスランがようやく何かを言いかけた刹那、真剣だったシンの顔が笑顔で緩んだ。
「なーんちゃって。俺にだって欲しいものはあるよ。でもロボットはいらないや。じゃ行ってきまーす!」
肩に提げたスポーツバックを背負い直すと、シンはそう言って駆け出した。
あっという間に種館の門から姿が消えていく。それをアスランはボーっとしながら見送った。
『アスラン!ソウジ、ソウジスル!』
「はっ!あ、そうだった。掃除掃除」
アスランのハロが叫んできてアスランは意識を取り戻した。
手にしていた箒で履きだして、途中だった庭掃除を再開する。掃き掃除するアスランの後ろを、ハロが跳ねながらついていった。
「ったくアイツ……可愛いこと言ってくれるじゃん」
シンの言葉を思い出して、アスランは頬を緩ませた。
『オモイダシワライ。アスランスケベ!スケベ〜』
「違うって。お前どこからそういう言葉覚えてくるんだよι」
アスランはハロに向けて箒をぶんと回した。ハロがうまく跳ねてそれをちゃんとかわす。
「お、ナイス」
ハロの俊敏さに感心しつつ、アスランは庭掃除を再開させた。
その日一日普段どおりに過ごしたアスランだったが、時たま顔がデレっとしてしまうのはとうとう寝るときまで直せなかった。
第8話 おわり☆