prayer
□明くる日
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「…え?」
きょとり。
そんな顔の十夜に容保は息を溢す。
新撰組から屋敷に引き戻してからはどうにも様子が可笑しいのだ。
「慶喜公が上様になられるのだ。主にも改めてもらうことになる」
「あー…それは御子として在れってことかな?」
「無論だ。身勝手な行動をしてもらっては上様にご迷惑がかかる」
眉を下げ、至極困り顔の彼女にいたたまれなくはなるが、こればかりは譲れないのだ。
「…あたしは、お前の為に在るんだぞ?それなのに徳川に仕えろっていうのか?」
「私に仕えるということは徳川に仕えるということだ」
「ウ〜ン。それだとあたしの意に反するんだよなぁ」
湯飲みを置くと十夜は彼を見据えた。
「あたしが来たのは、松平肥後之上容保に進言する為だ。在るべき姿は神託を授ける御子ではあるが、容保が居てこその神崎十夜だろう?お前の為とは言え、慶喜公に仕えてしまってはあたしが授かる神託は意を成さなくなる」
漆黒の瞳はいつだって真意を伝えてきた。
未来を予期し、歩むべき先を見定め、それに御合うだけの進言を差し出したのだ。
故に、会津や自身の立場や信念を彼女は余すことなく理解しているだろう。
(そうか…私が、間違いだったか)
瞑目した容保が僅かに失念だと笑みを浮かべた。
「そうであったな。お主は私のモノだ」
「そ。大事な、第二の命なんだから簡単に手離すなよ?」
朗らかに笑う十夜に知れずと胸が軽くなる。
が、廊下から聞こえた足音に二人は振り返った。