かすみそう
□募る想い
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「そーいやもう帰らねぇとな!」
「だね」
「山南さん、俺ら失礼しますね」
立ち上がる彼らに山南は首を傾げる。
明日は揃って非番のはずだ。
「何か用でもあるのかい?」
「いやぁ〜」
酔いも回ってるのか、藤堂は永倉を一見し、にんまりと笑う。
「新八っつぁんのコレが待ってるんで」
「………あぁ、十夜くんか」
小指を立てる彼の後ろでは、小常が永倉を引き留めている。
十夜の名に反応したのか、苦笑いした彼はそんな仲じゃないと反論した。
「十夜は世話役なだけだよ。別にそんなんじゃ…」
「でも新八っつぁんに忠実だしさ!見てて夫婦な時もあるよ?」
ね?
と、原田に同意を求めれば、彼は笑って頷く。
「十夜はぱっあんが大好きだからな!」
「ちょ、お前まで何言って」
「んな訳で、俺たちは帰りまーす!」
騒ぎながら部屋を後にした彼らに、山南は明里を見た。
目を輝かせるあたり、十夜が気になるのだろう。
「永倉はんのええ人なん?」
「そうだね、彼女は特別なんだと思うよ」
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「実際よ?どうすんだ?」
「…何が?」
ふらつく藤堂を両方から支え、原田はアイツ、と口を開く。
「もう20だろ?嫁に行ってても可笑しくねぇし」
「俺に関係ないでショ」
「関係「あるよ!」
いきなり声を上げた藤堂は、永倉を見るとため息をつく。
「あの子に聞いたんだよ?記憶なくても、もし旦那さんが探してたらどうするかって!そしたらさぁ、なんて言ったと思う?」
「「?」」
「今は永倉さんがいるので知りませんだって!旦那より新八っつぁんを取ったのよ!?」
「マジか!?」
「いや、もし、でしょ?」
騒ぐ二人に呆れながら、永倉は空笑いをする。
藤堂相手に軽く流したのだろうが、流し方が悪い。
「新八っつぁんはどうなんだよ?小常にも言ったんだろ?」
「え?まぁ、十夜がいる以上、通えないしネ」
屯所の門前を潜り、原田は口を尖らせた。
「新八はん、あてよりええお人なん?」
「すまない。手のかかるヤツなんだ。一人にしちゃおけねぇよ」
始まった喜劇に永倉は顔をひきつらせる。
「好いたお人なんやね」
「…俺の帰りを待ってんだ」
言っとくがそんな話しは一切していない。
突っ込むのも億劫だが、それが悪かったんだろう。
「新八はん、最後に…」
「小常」
「ちょーっと?そんなデタラメやめてもらえるかしら?」
流石の流れに止めに入れば、二人は肩を竦めた。
「名前で呼ばれて悪い気はしねぇだろ?」
「十夜ちゃんにも呼んでもらったら?」
笑いながら背を叩く二人に悪気はないのだ。
「呼び方で変わるもんはねぇよ」
「そうですね。変わるものはありません」
凛と澄んだその声に、三人は恐る恐る振り返る。
提灯片手に笑う十夜は、おかえりなさい、と告げた。
「変わるものはありません、が…酔いは醒めますよね?新八さん?」
「………ハイ」
「原田さんも藤堂さんも、折角お早く帰られたのですから、ゆっくりと休んでくださいね?」
「「ハ、ハイ!」」
脱兎の如く立ち去る二人に、永倉はため息をついた。