かすみそう

□募る想い
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「そーいやもう帰らねぇとな!」
「だね」
「山南さん、俺ら失礼しますね」

立ち上がる彼らに山南は首を傾げる。
明日は揃って非番のはずだ。

「何か用でもあるのかい?」
「いやぁ〜」

酔いも回ってるのか、藤堂は永倉を一見し、にんまりと笑う。

「新八っつぁんのコレが待ってるんで」
「………あぁ、十夜くんか」

小指を立てる彼の後ろでは、小常が永倉を引き留めている。
十夜の名に反応したのか、苦笑いした彼はそんな仲じゃないと反論した。

「十夜は世話役なだけだよ。別にそんなんじゃ…」
「でも新八っつぁんに忠実だしさ!見てて夫婦な時もあるよ?」

ね?
と、原田に同意を求めれば、彼は笑って頷く。

「十夜はぱっあんが大好きだからな!」
「ちょ、お前まで何言って」
「んな訳で、俺たちは帰りまーす!」

騒ぎながら部屋を後にした彼らに、山南は明里を見た。
目を輝かせるあたり、十夜が気になるのだろう。

「永倉はんのええ人なん?」
「そうだね、彼女は特別なんだと思うよ」

*******

「実際よ?どうすんだ?」
「…何が?」

ふらつく藤堂を両方から支え、原田はアイツ、と口を開く。

「もう20だろ?嫁に行ってても可笑しくねぇし」
「俺に関係ないでショ」
「関係「あるよ!」

いきなり声を上げた藤堂は、永倉を見るとため息をつく。

「あの子に聞いたんだよ?記憶なくても、もし旦那さんが探してたらどうするかって!そしたらさぁ、なんて言ったと思う?」
「「?」」
「今は永倉さんがいるので知りませんだって!旦那より新八っつぁんを取ったのよ!?」
「マジか!?」
「いや、もし、でしょ?」

騒ぐ二人に呆れながら、永倉は空笑いをする。

藤堂相手に軽く流したのだろうが、流し方が悪い。

「新八っつぁんはどうなんだよ?小常にも言ったんだろ?」
「え?まぁ、十夜がいる以上、通えないしネ」

屯所の門前を潜り、原田は口を尖らせた。

「新八はん、あてよりええお人なん?」
「すまない。手のかかるヤツなんだ。一人にしちゃおけねぇよ」

始まった喜劇に永倉は顔をひきつらせる。

「好いたお人なんやね」
「…俺の帰りを待ってんだ」

言っとくがそんな話しは一切していない。
突っ込むのも億劫だが、それが悪かったんだろう。

「新八はん、最後に…」
「小常」
「ちょーっと?そんなデタラメやめてもらえるかしら?」

流石の流れに止めに入れば、二人は肩を竦めた。

「名前で呼ばれて悪い気はしねぇだろ?」
「十夜ちゃんにも呼んでもらったら?」

笑いながら背を叩く二人に悪気はないのだ。

「呼び方で変わるもんはねぇよ」
「そうですね。変わるものはありません」

凛と澄んだその声に、三人は恐る恐る振り返る。

提灯片手に笑う十夜は、おかえりなさい、と告げた。

「変わるものはありません、が…酔いは醒めますよね?新八さん?」
「………ハイ」
「原田さんも藤堂さんも、折角お早く帰られたのですから、ゆっくりと休んでくださいね?」
「「ハ、ハイ!」」

脱兎の如く立ち去る二人に、永倉はため息をついた。
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