ずっと手繋いでいよう
奇跡みたいに出会えたんだから

【君にワープ】


喧嘩をした。何十回目…下手したら何百回目かの喧嘩。
いつもの事と言いたいが、今回は違う。あいつの様子が妙だった。

『そうだよな…俺達…      』

最後に見たあいつは自分が吐き捨てた言葉が跳ね返って、あいつまで傷付いたって顔だった。正直堪えた。
そんな顔させた自分に、そこまでして俺に捨て台詞吐くあいつに、腹立たしいやら情けないやらだ。
モヤモヤしたまま、俺は1週間くらい不貞腐れていたりする。
「銀ちゃん。箸置き何時、使うアルか」
「あ?箸置き?」
「マヨラーが買ってくれたやつアル」
そう言えば以前、面白がってマヨネーズ形の箸置きをあいつに買った事がある。あいつは気に入ったみたいで、お返しに俺に三色団子形の箸置きを買って寄越した。それを見た神楽が羨ましがったもんだから、結局あいつは新八に八の字形、神楽に丸い兎形の箸置きをそれぞれ買ったのだった。
頓所では失くすかもしれないと言って、あいつは俺ん家に箸置きを置いていたもんだから、新八も自分の箸置きを此処に置いていて、全員分が我が家に揃っている。
「使いたきゃ使えよ」
「嫌ヨ。ニコチンマヨラーが一緒に食事する時に使うアル」
「何だ、その妙なルールは」
「新八もそう決めてる」
そう言う神楽は俯き、口をへの字に曲げた。
これは、拗ねてるのか。拗ねられてるのか俺は。どうしろって言うんだ勝手にキレたのは向こうじゃねぇか。
「あいつ、こないだ見掛けたら寂しそうだったネ」
…だって、キレたのは向こうじゃねぇか。

『そうだよな…俺達…  だもんな』

声、震えてた。

困り果て、家を出た。行く当てはない。ぶらぶら歩いて、公園に差し掛かった所で思わず電柱に隠れた。
いやいや、何であいつ公園にいるの。私服って非番なの。てか何で俺は隠れてんの。アレじゃね?ちょっと声掛けてみても良くない?ちょっとまぁ話し合いとか必要だよな?うん。よし、行こう。
とか何とか、数分で覚悟を決めたのに、いつの間にかベンチに座るあいつの隣には沖田が座っていた。
……まぁ、さりげなく、近づいてみるか。
ちょっと不審な目を向けられているが、構わない。身を低くし茂みに隠れて近付く。
「何を湿気てんでさぁ。旦那の所にも行かねぇで」
沖田の呑気な声が聞こえる。
「いや…」
沈んだあいつの声が続いた。
「あんた近頃、益々気持ち悪ぃですぜ。死ねよ土方」
「テメェが死ね。ちょっと…な。なぁ、俺ってあいつの何なんだろうな」
「何って…付き合ってんでしょう」
あいつは黙りこくる。煙草の匂いがする。
「無用な詮索をさせねぇ代わりに俺もしないつもりだった。俺と一緒に居る瞬間だけ大事にしてりゃ良いって」
唐突な、あいつの脈絡のない呟きに沖田は黙って耳を貸す。俺は息をじっと潜めた。
「けどよ、あいつが傷を増やす度に気になるんだ。俺の知らない所で何してんだろうかって。その内にどんな人生歩んで来たのかとか、色々気になる様になっちまって…こないだ訊いちまった」
「何て」
「傷が増えてるけどどうした、って。あいつは関係ねぇの一言で済ました」
遠くで子供の泣き声が聞こえた。二人は何も言わない。俺は最後の会話を思い出した。

『傷、増やして…何やってんだよ』
『え?あー、お前には関係ねぇ。気にするな』


『そうだよな…俺達…他人だもんな』


あいつは、あの時と、同じ顔をしているのだろうか。

「…何を、悩む必要があるんです?」
沖田は溜息を吐く。砂利を踏む音がした。
「一生を添い遂げるかもしれねぇお人の事を知りたくなるのは当たり前でしょう」
「一生?」
「あらら?俺ァ、てっきりそう誓いでも交わしたのかと。違いましたか旦那」
茂みが揺れて、黒い革靴が視界に入る。見上げれば無表情の沖田が見下ろしていた。
「は?!え?!なんで!」
「土方さん気付いてなかったんですか。やれやれ…俺が殺す前に死なねぇで下せぇよ」
慌てふためく土方を置き去りに、沖田は何処かへと姿を消した。残された俺達は、互いに目を反らす。
「じゃあ…」
土方は目を合わせぬまま立ち去ろうとする。咄嗟に俺は土方の腕を掴んだ。土方は此方を向かない。喉に貼り付いて言葉が出ない。
「何で、此処にいんだよ」
土方が先に言葉を発した。相変わらず此方を向かない。
「俺にはな、お前のいる所に現れるワープ機能が付いてんだ」
「アホか」
「アホだ。でもテメェもアホだろ。俺達はさ、確かに他人同士だけどさ、でもこうやって繋がってられんだろ」
土方の手と俺の手を繋ぐ。土方の肩が微かに揺らいだ。
俺も俺達が何なのか分からない。俺達の関係に名前を付けるなら恋人とかが近いだろうけど、そんな痒いもんでは無い気がする。でも…。
「確かに俺とお前の帰る場所は違う。守るものも違う。でもさ、お前の箸置きは俺の家にあんだよ。お前の為の席が食卓にあるんだよ」
でも、お前が曖昧さが不安になるなら、ちゃんと名前を付けてやるから。
「一緒に飯食べて、一緒に寝て…他人でも俺達一番近い他人じゃん。家族じゃん」
「家族とヤるのかテメェは」
「夫婦ならありだろ」
「は」
此方を勢い良く向いた土方の瞳孔は普段より余計に開いていた。
沖田は去り際に良いこと言ったよ。俺の心が漸く分かった。俺はこいつと、ずっと一緒にいたいんだ。
「…プロポーズかよ」
「プロポーズでも何でもしてやるよ。お前があんな情けない顔、二度としないならな」
今こそ煌めけ俺の瞳。いざという時は正に今だ。
「結婚して下さい。書類も式も無いけど俺の嫁になって下さい。味噌汁を毎朝作らなくて良い。毎日一緒じゃなくて良い。だけど爺さんになっても一緒の布団で寝ろ。勝手に離れるな」
土方は顔も耳も首も真っ赤にした。繋いだ手が微かに震えていて、俺は指先に力を込めた。
「…はい」
土方は握り返してくれた。土方の瞳から頬を伝って落ちた雫は、綺麗だった。

「子供達が待ってるから、夕飯の買い物でもしようか奥さん」
「何が奥さんだ。アホ旦那様」
スーパーに向けて二人肩を並べて歩く。今晩は万事屋で皆で夕食だ。




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