企画

□ハロー、マイサンタ
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「クリスマスだね」
「そうだね」


例え嵐が来ようと台風が来ようとクリスマスが来ようと、この男は動かない。それが坂田銀時という男だ。


「……私にもサンタさん来るかなー」
「いい子にしてれば来るんじゃないかなー」


そうだ、わかっているじゃないか。この男は突然の雨でも洗濯物をとり込んでくれないヤツなのだ。クリスマス“如き"で動く訳がない、と名前はため息を付いた。


「銀さんはいつになったら動くのかなー」
「どうかなー」


あっけらかんと答えた銀時に、ついに名前の堪忍袋の緒が切れた。


「テンメェエエ!!いい加減にしねェと頭真っ黒にしてやっぞ!目立たなくしてやっぞコラァ!!いいのか?銀パーがただの黒パーになっても。ただの大○洋になってもおおおお!!」
「ちょっそれだけはやめてェエ!?つーかただのって何!大泉○に失礼!!」


読んでいたジャンプを取り上げられ、角で頭を叩かれる。銀時は涙目で頭を押さえながら後退った。


「何!何でそんな怒ってんの」
「……だって…クリスマスじゃん」
「あのなァ、クリスマスっつっても毎年必ず一度はあるんだぜ?そうなったら何も特別な感じしなくなってよォ。四年に一度とかならまだわかるよ?だけどこうも毎年毎年クリスマスやられたら、」
「あっそ、じゃあもういいよ。クリスマスケーキも私一人で食べるから」
「え゙…。あのォそれとこれとは話が別でしてェ…」
「クリスマスどーでもいいんでしょ」


うっ、と言葉につまった銀時。名前は完全にへそを曲げてしまったようだ。
ケーキを食べたい銀時は、必死に宥めるが聞く耳持たずだ。


「もーそんな苛々してぇ。あ、もしかしてアレ?生理?」
「っ、最っ低!」


しかも地雷を踏んでしまえば家から締め出されてしまった。


「……チッ、仕方ねェ、玉でも弾きに行くか」


帰る頃には機嫌も直ってるだろ、と銀時は頭をかきながらアパートの階段を降りていった。





「――おっそいなぁ。何してんのかあのバカは」


もう日も沈み、晩御飯の時間だというのに銀時は帰ってこない。自分で締め出したというのに名前は何だか沈んだ気持ちになってきた。
ああは言ったが、名前は一応チキンやグラタン、シャンパン、それにケーキも準備していた。少し豪勢に並んだ食事を前に、彼女は溜め息混じりにバカ…と呟いた。



――ピーンポーン。


「?誰だろう」


こんな時間に届け物だろうか、と怪訝に思いながら名前はドアを開けた。


「メリークリスマース」


そこには、赤い服を着たサンタクロースが、白い袋を担ぎにこやかに片手を上げ立っていた。


「はぁいお嬢さん、いい子にしてたかな?ギンタさんだよ〜」
「……え?ギンタマン?」
「違ェよ!ギンタ“さん"!!」


とにかく上がらせて寒いからそして周りの目が痛いからとサンタさんもといギンタさんは強引に名前を押しやり部屋に入ってきた。


「あーやっぱ日本人はコタツじゃなきゃねェ」
「…何やってんの?」
「何を言ってるんだ君。クリスマスといえばサンタじゃないかあ、ハハハハ」
「サンタがこたつでぬくってんな」
「てかすっげェ飯!超豪華!――うわあ!ケーキだあ!ねえ食べていい?食べていい?」
「あれ?もう設定放棄?」


とりあえず寒いので、名前はこたつに入った。サンタと食事を囲む構図に、なんだこりゃと名前は無表情に思った。


「ん?何だか浮かない顔してるなァ。ギンタさんでよければ話聞くよ?」
「ねェ銀さん、いつまでそれ続けるの?」
「え?何?何言ってるかギンタさんわからなーい」


あくまでもサンタを貫く男に呆れながらも、名前はそれに乗ることにした。


「聞いてよギンタさん」
「んー?なになに?」
「私の彼、銀時って言うんだけど、ぐうたらでどうしようもなくてアホでバカで」


ちょ、そこまで言う?と思いつつやや半泣きで聞いていると、名前は段々言葉が尻すぼみしていき、俯き出した。


「銀さんの今更って気持ちもわからないでもないけどさ、私だってクリスマスくらい……甘く過ごしたいの…」
「………」


銀時は無言で徐に、もさもさした白い付けひげを外した。

俯いていた名前は一つ息を吐くと、気まずい雰囲気を打ち消す様に、ご飯食べよっかと務めて明るい声を出した。そして、顔を上げると目の前のサンタがいない。


「え、ギンタさ――」



布の擦れる音と甘い香りがした。
名前の頬を持った銀時は、やがて唇を離すと優しく微笑んだ。


「ばーか、最初からそう言やァいいだろうが」
「……銀さん…」
「ほら、冷めない内に早く食おうぜ?」
「銀さん大好きっ!」
「うおっ」


勢いよく抱き付いてきた名前によろけながらも、呆れた様に笑い、彼女の頭を撫でたのだった。



「――あ、そういえば」
「え?」


銀時は思い出した様に持っていた白い袋からガサゴソと何かを取り出した。


「やるよ、キャラメル。お前好きだったろ」
「わ、ありがとう!」


嬉しそうに受け取った名前は、もしかしてクリスマスプレゼントなのかと頬を染めるが、銀時はへらっと笑い片手を頭にやった。


「いやァ実はよ、珍しくパチンコが負けなくて、で、景品がたまたまそれだった訳、」
「それ言わなくていいだろぉおおお!!それにオチがどうしようもねェんだよコノヤロー!!」





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