企画

□今宵こそ永遠なれ
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「いやっほおおおおーい!地上じゃアアア!!おりょうちゃーーん!!」
「待てこのボンクラアア!!」


この男はいつもそうだ。私の手をすり抜けどこかへ行ってしまう。私の想いなんか知りもせず。そしていつも陸奥に言われるのだ。あんな節操無しふぐり無しやめとけと。


「イヤ!!絶対諦めない!」


呆れる陸奥を置いて私は男の後を追った。諦めない、諦めてたまるものか。ずっと追い掛けてきて今更諦めるなんて出来っこない。もう意地になってると言っても過言ではないだろう。


「ーーってェな!どこ見て歩いてやがる!」
「すいません…!」


いつ来ても色んな意味で賑やかな夜のかぶき町。人の往来が激しい中、赤いデカブツを探す。

間に合え、間に合え。

今日だけは、“おりょうちゃん”の元へは行かせない。行かせたくない。


「くっ…ぅう…!ーーバカ元のバカヤローー!!」
「バカとはなんじゃバカとは!」
「……え?」


振り返れば奴がいるよろしく、探し求めていた赤いもじゃもじゃがそこにいた。


「何じゃおんし、こがな所で何をしちゅう」
「……あんたを追ってきたのよ。バカ」
「バカはおまんぜよ」


呆れた様にソイツは笑い、困った様に頬をかいた。大した執念じゃ、とか仕事の鬼ぜよ、とかブツブツと呟く男に頭が煮込んだ鍋の様に熱くなった。

私が、仕事の為に、あんたを追ってきたと思っているのか。片腹痛いわ。


「っもういい!好きな女の所でも“おりょうちゃん”の所でも好き勝手行けばいいじゃない!!」


ムカつくムカつくムカつく。あいつは“おりょうちゃん”の尻を追っ掛け私はあいつの尻を追う。何だコレ。笑いしか出てこない。
スタスタと来た道を戻る。はあもういいやってらんない。って、何て気の短い女なのだろう私は。それだから辰馬に見向きもされないのだ。

と、一人でいじけていれば背後から誰か付いてくる感覚。歓楽街から抜けた所でついに頭にきて振り返った。


「何で付いてくんのよ!」


怒鳴りつければ男はすっ惚けた顔で首を傾げる。その顔妙にイラつくから今すぐ止めて欲しい。


「何でと言われても…」
「全く!つくづく腹の立つ男ね!」
「アッハッハッハ!おんしはまっこと素直がやない女ぜよ」
「なッーーってちょっと!」


辰馬に腕を掴まれ引きづられる様にしてどこかへ連れて行かれる。気付けば見晴らしのいい土手の上にいた。


「何なのよ一体!」
「おお、星がよお見える」
「って話聞きなさいよ!」


意味分かんない、と吐き捨てる。さっさとおりょうちゃんのとこにでも行ってしまえ。なんて不貞腐れていたらずいっと出された赤い包み。不審そうに見ていたら無理矢理渡された。


「……何?」
「今日はクリスマスやき」
「…はい?」
「にっぶい奴じゃのォ、プレゼントに決まっちゅう」


開けとおせ、と言われ困惑気味に開けてみると、辰馬からは想像出来ないような小洒落たネックレスが出てきた。状況が上手く飲み込めない。


「こがなもん、地球にしか売っちゃーせんから苦労した」
「だってあんた…“おりょうちゃん”って …」
「ありゃあおんしを出し抜くための嘘ぜよ」
「ハァ!?」


ニンマリと笑って言う辰馬。そんな事言われても信じられる訳がない。ふん、と鼻で笑ってそっぽを向いた。



「またそんな調子のいい事言って仕事から逃げたいだけなんでしょ。どうせ“コレ”だっておりょうちゃんにあげようとしてた、」
「名前」


久々に呼ばれた名前に心臓が高鳴って、誤魔化す様に何よ、と語尾を強めて振り返った。途端、掴まれる顎。1センチあるかないかの距離で辰馬の青い瞳と目が合った。


「少し、黙っちょき」


有無を言わせず唇が重なった。カサついた唇を感じながら、そういえばサングラスを外している事に気が付いた。


「ぅ…むっ!」
「っ、ハァ……おんしがゆうたんじゃ…“好きな女の所にでも行け”と」
「え…」
「わしも最初はてっきり仕事の為かと思っちょったがけどな、」


その反応だと違うみたいじゃ、と勝ち誇った笑みを浮かべながら、赤くなっているだろう私の顔を指した。


「べ!別にそんなんじゃ、」
「無駄じゃ無駄じゃ」


辰馬にしてはクスリと妖艶に笑い、反論しようと口を開きかけた私の手からネックレスを取った。そのまま私の首の後ろに手を回す。

まるで抱き着かれている様な体制に固まる私の耳元で、追い打ちをかけるかの如く囁いた。


「メリークリスマス、名前」


すでに首にはネックレスが飾られていた。





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