*高杉現パラ拍手連載





「――やあ高杉殿、今夜は素晴らしい会に招いて頂いて光栄だよ」
「こちらこそ」


何度目かの握手と挨拶を交わして社長は微笑んだ(あたしから見ればとても嘘くさい)。その度に周囲の女性陣がうっとりとした眼差しでそれをみていて、社長の隣にいるあたしとしてはいつそれが敵意の眼差しに変わり、こちらに向かれるか気が気ではなかった。


「…ずいぶんと人が多いんですね」
「そりゃあウチのパーティーだ。派手にやらなきゃ意味がねェだろ」


男はグラスに口付けながらニヤリと笑って見せた。その笑みの方がよっぽど彼らしい。あたしは知らず溜息をついていた。


「何だ、もう疲れたか」
「…肩がこっただけです」
「ほう?なら俺が“揉んで”やろうか?」
「何でいちいちイヤらしいんだあんたは」


耳元で囁いてくる社長を押し退けてあたしは社長との距離を置く。ああ、周りの視線がイタイ。


「ククッ、そう照れるな。なんならこの後――チッ、アホが来た」
「アホ?」


何だかトンデモナイ発言をしようとしていたが、それよりも忌々しげに吐かれた言葉の方が気になった。社長がこんなに嫌そうな表情をするのは初めて見る。視線の先を追えば大きく手を広げてこちらに歩み寄る中年がいた。


「…何アレ、モヒカン?いやモヒカンって言っていいの?ただ横剃っただけ?」
「めんどくせェ…。おめェさん、あっちでメシでも食ってろ」


促されるまま、社長から離れたあたしは少し振り返りつつテーブルへと歩いていった。社長にアホと言わしめたおっさんは彼の肩をバンバン叩きながら大笑いしている。いつの間にいたのか、社長の側で河上専務が肩を震わせていた。




「――おねえさん」


もぐもぐと豪華な食事を頂いていると妙に間延びした声が聞こえた。耳馴れぬ声によもやあたしを呼んだのではあるまいと食事を再開すれば肩を叩かれた。


「こんにちは」
「こ、こんにちは…」


振り返れば頓珍漢な挨拶をされ、思わず口に入ってた料理を変に飲み込んでしまった。ニコニコと笑う青年は握手を求めてきていて、あたしはおずおずと手を差し出した。え?誰この人。


「お姉さん、あっちで俺と飲まないかい?」
「いや、それはちょっと…。って君だれ?」
「いいからいいから」
「ちょっ…!」


光の速さ(冗談抜きで)で腕を取られ、半ば引きづられる形で青年の言う“あっち”へ連れて行かれる。困り果て社長を振り返れば今だにアホに肩を叩かれていた。そして専務も必死に笑いを堪えていた。


「ってお兄さんんんんん!?握力強いね、てか強すぎね!?痛いんですけどォ!握り潰そうとしてない!?」
「あはは、面白い事言うねお姉さん」
「何も面白くないよ!?」


こんなやり取りをしてたせいか、社長の姿を完全に見失ってしまった。何だコレ、拉致かな。本日二度目の拉致かな。
隅の壁際まで連行されたあたしは漸く解放され、青年を軽く睨んだ。そのピョコピョコしてるアホ毛むしってやろうか。


「そんな怒らないでよ。ほら、俺ってシャイだからさ」
「何その理由。てかほんと誰だアンタ」


いい加減名乗れよ、と暗に言えば青年はいつの間に頼んだのだろうグラスをあたしに差し出す。泡立つ液体を見つつ、戸惑いながら受け取る。青年がグラスを合わせてきて一口飲んだので、あたしも渋々口に付けた。







「シンスケってこういう女がタイプなんだ」


その言葉を聞いた瞬間イヤな予感がした。


「――ッ!?」
「ありゃりゃ、即効性抜群」


急に焼けるような熱さに見舞われて膝から崩れ落ちた。まるで身体中の血が沸騰したみたいに。風邪をひいたような熱さではない。これは……。


「大丈夫かい?お姉さん」
「あっ!!」


青年が眉を八の字にしながらあたしの肩に触れる。その瞬間、身体中にビリビリと電流が走ったような衝撃が走った。思わず出た声に両手で口を押さえ、青年を睨み付ける。


「ハァ…ハァ、あんたっ…一体な、にしたの…」
「“転生郷”って言ってね、今うちの会社で開発中の媚薬だよ。君が飲んだ酒に一服盛らせてもらったんだけど……いやァ、まさかこんなにイイ表情してくれるとは思わなかったけどネ」
「ひ…!!」


首筋を指先でなぞられ電流が走る。それよりこいつ、媚薬って言った?しゃがみ込んできた青年から逃れようと力が入らない身体に鞭打って後ずさる。壁に背がついた時、渋い声が迫る青年の動きを止めた。


「――オーイ、このスットコドッコイ!急に消えたと思ったら一体何やってんだ」


青年の後ろからやって来たのはいい歳したおじさん。おじさんはへたり込むあたしを見て目を見開いた後、やれやれと肩を竦めた。


「…この嬢ちゃん、たしか社長んトコの女じゃねェか。ったく勘弁してくれよ、一体誰が尻拭いすると思って、」
「阿伏兎、今いい所なんだからサ。邪魔するなら殺しちゃうぞ」
「おーこえーこえー」


相変わらず薄気味悪い笑みを浮かべている男は後ろのアブトさんに構わずあたしに手を伸ばしてきた。


バシッ


「…この、クソガキッ、いい加減にしないと…お姉さん怒っちゃうゾ……!」
「!…へェ、凄いねお姉さん。転生郷飲んでてまだそんな元気があるなんて」
「っな!?転生郷だと!?…オイオイ団長、冗談はそのアホ毛だけにしてくれよ」
「阿伏兎、団長って呼ぶのはやめといた方がいいよ。いま現パロだし」
「あ、そうか」
「ちょ、ほんと…これ、どうにかしなさいよこの…くされアホ毛…!」
「うわ、くされアホ毛なんて初めて言われた。お姉さん、きっと強い子を産むよ」
「ほう?じゃあ俺ァその“過程”を楽しもうか」
「!」
「…あり?」


このふざけた不毛な会話を終わらせたのは、高圧的な下ネタだった。






*続く


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