*高杉現パラ拍手連載






「やあシンスケ。創立記念おめでとう」


しゃがみ込んでいた青年が背後の気配に振り返らずにっこり笑ってそう言った。


「おめェさんから祝いの言葉がもらえるなんてなァ、神威」


社長はニヒルに笑いそう告げるが、目が全く笑っていなかった。


「いやーすいませんねェ、うちの上司ったら面白いモン見つけるとすーぐ手ェ出しちゃうもんで」
「てへ」


アブトさんが頭をかきながら社長と青年――カムイの間に立つ。カムイは人の良い笑顔とは裏腹にあたしを弄ぶ手を止めない。口を手で押さえて声を押し殺す事しか出来ないあたしを、社長はただただ見下ろしていた。


「…ここで何してる」
「シンスケが女なんか従えて登場するもんだから気になってさ。――まァそれは俺だけじゃないと思うけど。ついつい媚薬盛っちゃった☆」
「ふぅ…っ!んん!」
「おねえさんどう?気持ちいい?どこが一番気持ちいいか俺に教えてよ。それとも、シンスケに聞いた方が早いかな」
「………」


この青年からは全く悪意が感じられないから、それが恐ろしかった。
カムイは社長が現れてからスイッチが入ったように迫り出した。何故か社長の反応を伺いながら楽しむように。何だこれ、こんな公衆の面前で。何の罰ゲームですか?何か悪いことした?


「…ヘェ、媚薬ねェ…。そりゃあいいモン仕込んでもらった」


社長はそれはそれは妖艶に笑いながら言い放った。あたしは朧げな意識の中、急な浮遊感に襲われたのが分かった。


「連れが体調不良だ。一室用意しろ」
「わっ分かりました」
「万斉、後は頼んだぞ」
「御意」


外面仕様の社長は手際良く指示を出す。あまりにも声が近くで聞こえるので薄っすらと目を開けた。


「(ああ…これ、お姫様抱っこされてるわ……どうしよう恥ずい)」


ガヤガヤとした喧騒の中、社長は颯爽と歩き出す。後ろではアブトがブツブツと愚痴をこぼす声が聞こえていた。




「――今夜は眠れないよ、おねえさん」







――エレベーターまで運ばれたあたしだったが中に入ると、さすがに重いと言われ降ろされた。だけど、到底一人で立てないあたしは社長の肩を借りている。
珍しく社長が無言なので、エレベーター内はあたしの息遣いだけが響いていた。


「(何この羞恥プレイ……厄日だ…)」


あたしは何とか思考を停止させないよう色々考える。この際ハッキリ言おう。気を抜けばイキそうなのだ。


「ハァ、ハァ、も…むり…」
「…もう部屋に着く。我慢しろ」


一刻も早くこの男から離れないと大変な事になる気がした。


エレベーターが目的の階に止まりドアが開く。社長の肩を借りながらあたし達は一歩一歩進んだ。何百メートルも歩いたような気がしたが、実際には数歩しか歩いていなかった。


「…着いた」
「ありがと、ございます…」


社長はカードキーでドアを開ける。あたしは何とか社長から離れ自力で中に歩いていった。


「も、ハァ、部屋で、休むので……あとは、」
「あ?何言ってやがる」


え、と顔を上げると足がもつれ壁に背中を打ち付けた。そのままずり落ちそうになるのを社長が支える。彼は私の顎を持ち上げるとシニカルな笑いを浮かべ、鼻先が触れ合う程の近さで囁いた。


「こんなエロい顔した女を置いて、帰ると思ったか?」


キィッと音を立ててドアがゆっくりと閉まっていく。社長はあたしの髪を耳にかけながら、あたしの唇を見て、そして視線が交じり合う。


「わざと、らしく焦らして…っ」
「それがイイんだろ…?」


扉が閉まった瞬間、あたし達は貪るように唇を合わせた。あんなに力が入らなかった身体が嘘のように社長にしがみつく。お互いがお互いの服を脱がせていきながら、舌を絡ませた。
社長はあたしを抱き上げるとベッドに寝かせ、あたしに跨る。ボタンが外れ胸の下まではだけた彼はとても扇情的だった。


「…言え。どうされたいか」
「ッえ…?」
「他の男に遊ばれた罰だ。言わなきゃこのままだぜ?お嬢さん」


ニヤリと口の端を持ち上げた社長はあたしの手を取り指先を舐めた。生殺しも同然の仕打ちだ。


「……おねが、い……めちゃく、ちゃに……抱いて…!」


羞恥心なんてどこかにいってしまったあたしは社長に懇願し、手を伸ばす。彼は満足そうに目を細めるとあたしの首筋に顔を埋め、こう囁いた。



「言われなくても」


じゃあ何故言わせたんだ、と非難の声を上げる間もなく快楽に沈んでいくのだった。







*続く


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