ハウルの動く城
□鏡の魔法
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「あれ?今日はどうしたんだい??」
ハウルがそう言うと、レナは少し照れた様子で微笑んだ。
彼女は浴室にあるシンクの洗面台の前で、熱心に鏡を覗き込んでいた。
『えへへ…。今日は蒸し暑いから、髪をアップにしてみた』
よく見ると、確かにレナの容姿はいつもと違っていた。
普段のレナはストレートな髪をそのままにしているのだが、今日は珍しくレトロなバレッタを使い、長い髪を真上に結い上げている。
ハウルには、表に曝された彼女の白い首筋やうなじが、今日に限って眩しく見えた。
『なッ、なに?…そんなにジッと見つめて…』
「いや、」
ハウルは身動きせず、レナの首筋やうなじをじっくりと見つめている。
すると、彼は黙ったままレナの背後へと忍び寄り、突如彼女の真っ白なうなじに噛み付いた。
『痛ッ!…ちょっと、ハウル!?』
軽い痛みと若干のくすぐったさに、レナは思わず顔を歪める。
「…レナ、いい匂いがする」
ハウルは顔を埋めたまま背後から両手を広げると、くすぐったそうに身体をよじるレナを抱き締めた。
「これは、僕が買ってあげた香水の匂いだね?」
レナからは、ふんわりと柑橘系シトラスの香りが漂った。
『ハウルがプレゼントしてくれた香水でしょ!気に入ってるの』
レナはそう言うと、ハウルは「ふぅん…」と呟いた。
心なしか、レナと鏡に映る愛しの彼は、恐いくらい不機嫌そうに見えた。
『…ハウル?』
「…ちなみに、そのバレッタは誰から貰ったんだい?」
レナは背後からハウルに抱き締められた状態のまま、鏡に映った自分と彼を見ていた。