一万HIT小説

□氷帝式サバイバル
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「いいかお前達、これからは…サバイバルだ!!」





時は卯月の中頃。
氷帝学園中等部、キングこと跡部景吾が仕切るこのテニス部は寒さが残るとある山にキャンプへと訪れていた。
跡部の掛け声に部員はそれぞれ声を返し、やる気をアピールさせていた。












「ったく跡部の奴、こんな時期じゃなくて夏とかにしてくれりゃぁいいのに」
「まぁ夏は試合やら合宿やらでまた予定が多いからなぁ。俺はえぇ時期やと思うで。」





キャンプは楽しみ、但し時期に不満があるらしい向日はちぇー、と言いながら虫取り網をしまっていて。
子供か、と忍足が思ったのは言うまでもない。

と、ここで一つの事柄に気が付いた宍戸がおい、と跡部に声を掛けた。






「おい、持ち物の中にテントがないぜ」
「あーん?そんなもの必要ねぇだろうが」







宍戸の問いにテントは不要、と迷わず断言した跡部。
簡潔すぎる解答に不満を口にしそうになった所、跡部は地図を取り出し、地面に広げた。







「此処が現在地だ。ここより東に5キロ先に今日泊まる俺様の別荘がある。そこまで競争で行くのが最初のトレーニングだ。」





さらさらと地図にラインを引き道順を説明する跡部に一同は耳を傾け、意識は金持ちの別荘とはどのような物かという事に思い馳せていた。





「なお、タイムリミットは日没まで、道すがら食材になるものを各自収穫してくること。いいな」






つまりはそれがサバイバルの内容ということ。
各自が採ってきた食材が今日のディナーに加わると言われた一同は跡部のスタートの合図と同時に駆け出した。
今の時刻は午前11時。
普通ならば2時間掛からない距離に6時間以上の猶予を与えたのは当然、食材探しという名の山岳トレーニングの為だ。
各自昼食とナイフ、袋にロープ等を至急されているレギュラー陣がどこまで動けるかが今後のメニュー制作時の参考資料になる。

跡部は樺地と共に他のメンバーが森の中に消えるまで見送った。






「…さて、それぞれの荷物にGPSは入れ忘れてないな?」
「ウス」
「なら、俺達は先回りして食事の支度だ。行くぞ樺地」
「ウス」





樺地、跡部はサバイバルには参加せず、真っ直ぐに別荘を目指す。
何を隠そう、キャンプ中の食事は全てこの2人が振る舞うのである。
別荘脇には温室があり、常に新鮮な野菜が手に入る。たんぱく質系の物は今日の朝に既に搬入されている。
その点2人は抜かりがない。
2人は何を作れば部員達が持ってくる山菜中心と思われる食材を美味しく頂けるかを考えながら別荘へと足を進めたのだった。








日没後。





「俺達はなんか適当にキノコ採ってきたぜ!!」
「ヒラタケっぽいのとしいたけっぽいのはいけるんちゃうかなと思てな。」





時間通りに帰ってきた部員はそれぞれ成果を披露してきた。
向日は忍足と共に一発目からかなり怪しいものを持ち込んできた。






「…食えるかどうかは後で確認する。次」
「はい。俺は山菜を採ってきました。」
「無難だな。しかも種類も多いな」







中身をざぁっと開けた日吉。
季節的には少し遅いもののふきのとうに始まり、わらび、ゼンマイ、たらのめやウドなど和食に絶大な味を発揮するものが多く袋には詰められていた。
流石は日吉、と全員が尊敬の目を日吉へと注いだ。






「流石日吉だな。期待以上の成果だ。」
「ありがとうございます」




よし、と跡部はほくそ笑むと次は、と催促をした。






「次は俺と長太郎だな!」
「日吉ほどじゃないんですけど三ッ葉と紫蘇、ヨモギを採りました。あとは僅かですが山椒の葉です」







宍戸と鳳は薬味に使えるものをチョイスして探してきたようだった。
山椒の葉は殺菌作用に期待が持てる所謂防腐剤代わりだ。
どちらが知っていたかは判断出来ないが中々の博識に間違いは無いだろう。






「中々のもんだな。」






お前はよくやった、と跡部が言おうとしたがちょっと待ってください、と日吉がストップを掛けた。







「ジロー先輩がまだ帰ってきてません」
「あーん?」






またどっかで寝ているのか?
真っ先に思いつくのはそれだが万が一ということもある、と跡部は眉をひそめた。






「樺地」
「ウス。………GPSは近くを指してます。じきに帰ってくると…思います」
「そうか。ならいい」






まさかGPSを付けられているとは思いもしなかった部員はプライバシーについて文句を言おうとしたが、現在地以外は何も分からないと断言され、押し黙った。
そして樺地の言う通りにしばらくすると




「おっまたせ〜♪」




と元気よくジローが別荘の扉を開けた。





「遅い。時間はきっちり守って貰わねぇと困るぜ」
「それは悪かったと思ってるC〜。でもでも!すっげぇ沢山獲物持ってきたよ♪」





ホラ!!と袋の中身をジローが披露すると一同はおぉ!!と歓声を上げた。
何故ならば袋の中には岩魚や鮎が沢山入っていたからだった。
これには跡部も舌を巻いた。






「こいつらどうやって手に入れたんや?」
「ひみつ!」
「荷物に釣竿を入れてなかった筈だが」
「だから秘密だって!!」






笑顔ながら絶対に口は割らないと言わんばかりな態度にしぶしぶ折れた跡部ははぁ、とため息をつくとパチン、と指を鳴らした。






「よぉしお前ら、こいつらを厨房へ運べ。俺様と樺地でとっておきのディナーを作ってやる。それまでは自由行動だ!!」
「「「よっしゃあ!!」」」








高らかにそう告げた跡部に部員は素直に従った。
こういう場でのノリは皆が割と乗ってくれるのがこいつらの良い所だな、と跡部は満足気であった。



そして跡部は樺地を引きつれて厨房に立ったのだった。





End
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