一万HIT小説

□微細な変化に気付いてよ!
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「おかしいと思わへんか」


唐突にそう呟いた忍足に何が、と聞き返した。
忍足と付き合いだしのは三ヶ月前、忍足宅に遊びに行くようになってから一ヶ月半が経過していた。
その中で彼がこのように真剣な表情を見せたのは試合のとき以外では初めてだった。
加えて机を挟んで向かい合う状態、肘を立てて指を組み、その組んだ手の上に顎を乗せている忍足がここまで絵になるとは越前は思いもしなかった。
何が、と聞き返したにも関わらず何も変化のない忍足にしびれを切らした越前は机の下で軽い蹴りを入れた。




「全く、乱暴やなぁ…ちょっと妄想してただけやのに」
「目の前に恋人がいるのに妄想なんて、随分酷いことしてるんだね」
「いやいや、妄想かてお前さんに関するもんやし」



じと、と冷たい目線を刺された忍足は組んだ手を解いて手を伸ばし、越前の頬を撫でた。
越前はその行為事態は眉を顰めただけで特に責めはせず、何の妄想?と、話の続きを促した。






「それはな……越前がデレる妄想や」
「帰る」



忍足の返答が気に食わなかった越前は席を立つと荷物を取ろうと手を伸ばした。



「待ち待ち待ち待ち待ちぃや!!帰らんといてや!ちょっと考えただけやんか!」



な?な?と越前を宥める忍足はどうにか帰宅を阻止しようと扉の前に立ちふさがった。
暫しのにらみ合いの末、越前ははぁ、とため息を一つ漏らして元の席へついた。

それを見てホッとした忍足も定位置へと戻る。




「ホンマすまんかったわ越前。そない怒ると思わんかったわ」




だから許してぇや、と忍足が続けて言うと別に怒った訳じゃないから、と越前から返答が来た。





「じゃあなんで帰ろうとしたん?」
「それは忍足さんに呆れたからだけど?」
「は?なんでや」




呆れた?俺の何処に?
良く意味が分からないとばかりに首を傾げてみると、これまた盛大なため息を越前はついた。





「あのさ、俺がそこらへんの女みたいにキャッキャワイワイしてたら忍足さんだっていやでしょ」
「…………………」





アリか、ナシか…難しい所やけどナシでは、ない。
でも違和感半端ないやろな。
そんな俺の表情を読み取ったのか越前はでしょ?と確認してきた。





「でもさ、俺からするとずいぶんデレてるつもりなんだけど?」
「は…?」




越前がデレてる?いつ?
続きを催促するために頭をぽんぽん、と撫でると「これだよ」と上目遣いで言ってきた。






「頬っぺ撫でてきたり頭を撫でてきたり、そんなの忍足さん以外の他の人になんかさせないんだけど?」
「あ…」





それか、いやそりゃそうや。
他の人にされて嬉しそうにしとったらお仕置きもんやし。
て、そか。まったく……





「ホンマ分かりづらい愛情表現やなぁ…」
「とかいいつつ顔が嬉しそうに歪んでるよ」





しゃぁないやん。
だってそれを越前の口から聞けるんやもん、嬉しいに決まっとる。
こんな些細な事で喜べる俺はお手軽かもしれんが相手が越前だからこそだ。





「ほなら今度はもっと大きな反応貰えるように努力するわ」





へらへらした笑顔から射抜くような笑顔へ変わった忍足は努力するわ、と言いながらお約束のように手の甲へ唇を落とした。






「……そーゆうの反則なんだけど…」




消え入りそうな声に弾かれて顔を上げれば、ハの字に眉を下げ、顔を真っ赤に染める越前の表情が目前に広がった。







END

(さっそくえぇ顔見せて貰ったわ)

(だってあんな目でこっち見るから…)
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