一万HIT小説

□それはささやかな欲望
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「あ、おった!!仁王ク〜!!ン」
「うっさいのぅ白石。そんなに叫ばんでも聞こえるぜよ」








新大阪駅を降りてすぐ、俺を見つけた白石はそうそうに声を掛けてきよった。
聞こえる、とさっきは言ったものの、実際は新幹線の中から白石の姿を探していた俺が近くに降りたからすぐに声を掛けてきてくれたんじゃろう。








「いやぁ、自分ホンマに目立つからすぐ見つかるわぁ」
「フ、その言葉をそっくりそのままお前さんにお返しするぜよ」









そう、俺達は目立つ。
薄い色素の髪に整った顔。
自分で評価するのもなんだが"美形"の部類に入るはずだ。
無論、俺より白石の方が美形だしイケメンだが。








「ほな、着いたばっかで悪いけど早速行こか。また移動するで」
「分かっとる。早よ案内しんしゃい」








クスリと笑う白石に微笑み返し、並んで歩き出す。
――――――そう、今日は久々のデート、なのだ。


バスを乗り継いで暫くすると見えてきたのは水族館。
――――水族館とはまたベタなチョイスやの。
そうは思ったがきっとバイブル的に何かこだわりがあるんだろう、と白石の意見をそのまま呑んだ結果だった。












「おー、やっぱり休日は人が多いのぅ」
「せやなぁ。ま、ゆっくり見てこうや」








家族や友人を連れ、各々が水槽を眺めているのを横目に入れ、視界のほとんどは白石。
正直水槽の魚などは背景の一部であって、大した価値ではなかった。

楽しそうに水槽を眺める白石を眺める方がよっぽどいい。
そう考えていると白石が俺の方をくるりと振り返った。








「仁王クン楽しんどる?」







その問いかけに俺は笑ってプリ、と答えた。








「あの鰺の群れとか旨そうナリ」
「食べ物としてかいな!?ナイスボケやわぁ…ウチに来ぇへん?」
「お断りじゃ」








白石…というか四天宝寺お約束のツッコミ(勿論ボケたつもりはない)を浴びてフフ、と笑いが込み上げそうになった。
――――こんなイケメンがツッコミに力を入れとるなんて。
神奈川じゃかなりの希少なキャラだ。
こういう時に地域柄を感じられるから面白い。


次はサメ見に行こか!とはしゃいでる白石に待ちんしゃい、と後から告げるときちんと立ち止まってこちらに手を差し伸べてきた。









「?」
「手、繋がへんの?」








何言っとるんじゃ。







「男同士が手を繋いでたら気持ち悪いぜよ」
「ヒドッ!!傷つくわぁ」







至極残念そうな白石を見てこちらまでなんだか悲しくなる。
男同士で手を繋ぐのが不自然なのは世間の意見だ。
本当は俺だって繋ぎたい。
でも俺の妙に高く、崩れがたいプライドがそれを許さん。
こんな自分は大嫌いじゃ。
結局俺は白石の真横に位置付け、先程同様並んで歩くだけにした。

















「ホンマ今日は楽しかったわ。付き合うてくれておおきにな」
「何言うとるん。俺だって楽しかったぜよ」







歩く度に揺れる髪をくるくる回しながらそう答える。
今日は白石宅に泊まりに行く予定だから帰り道も一緒だ。
あと一晩白石と一緒にいられると思うと嬉しくてつい笑みが浮かぶ。
そんな風に舞い上がっていると不意に右手に温かみを感じだ。









「ピヨッ?」
「ここらほとんど人通りがないから…えぇやろ?」








温かみの正体は白石の左手。
包帯越しだからじんわりとだったけど確実に俺の中に入ってくる熱にまたまた嬉しい。
でも、恥ずかしい。
俺は普段は神奈川だからいいが、白石はご近所だ。
誰かに見られたら―――――
なんて思ってたら白石がそう言えばな、と話始めた。








「なぁ仁王クン、俺な、今日メチャクチャ楽しみやったんや。
仁王クンとデートや言うてそこら辺の女子みたいに盛り上がって服とかどうしよう言うてクローゼットの中ぶちまけて…
手ぇくらい握らせてな」








こ、こいつ何言いだすんじゃ恥ずかしい!!
そんなん俺だってやったに決まってる。
どの服なら白石と並んでも大丈夫かとか髪型なんてボサボサに見えるだろうがセットに普段の倍の時間をかけた。
楽しみだったんはおまんだけじゃない。


だから、手は離さん。
俺は周りのカップル共と同じ事をしている。
それの何が悪い。
それに、俺は"白石にお願いされたから仕方なき手を繋いでやってる"んじゃ。


なんて言い訳並べて、とどのつまりは嬉しいだけなんに、素直に言えんのぅ…


道に伸びた影が2人分。
それは手と手で繋がって一つになっていて。









「えぇのぅ」
「?」








訝しげな表情をする白石に何でもないぜよ、と言って少しだけ歩調を速めた。




相変わらず手は繋いだままで低体温の俺が暖まる感覚が終始していた。




白石が好きじゃ。
伝えたいけど言えない言葉を手の力に変えて、俺は白石の手を強く握った。






END
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