〜縁〜

□太陽と月の物語
1ページ/8ページ

小さな少女が林の中を走っている。いたずらな風が長い髪を時々、木に絡ませる。
「痛っ…急がなきゃ」
やがて林を抜け、草原に差し掛かる…其処には数名の人影。
「あ、兄様!」
少女は嬉しそうに一人の男性に抱き付いた。兄と呼ばれた男性は、少し驚いた様子で少女を見つめる。長身に少女と同じ長い髪…男性は一族を束ねる長、少女の自慢の兄だった。
「どうした、一人か?危ないではないか」
兄は少し咎める様に眉を潜める。
「だって…早く兄様をお迎えしたかったんだもん…」
「…そうか」
兄は妹を抱き上げた。
「でも、次からは大人しく神殿で待ってるのだぞ?」
此処は危ないと、まだ幼い小さな妹を諭す。
「はい…御免なさい…」
兄は、しゅんとしてしまった妹の頭を撫でる。
「だが…嬉しいよ。ただいま」
にこりと笑う。妹も満面の笑みを浮かべて抱き付いた。
「兄様…お帰りなさい!」


兄と手を繋いで帰る帰り道…小さな少女にとって、兄といられる時間が一番楽しい時…忙しい兄とは余り会えない。兄の所の者達も自分の所の者達も、兄の側に自分が寄る事を疎ましく思っている…幼いながら少女はその事を知っていた。

「あ、兄様、木の実!!」
見上げた先にたわわにみのる熟れた果実。
「旨そうだな…取ってこい…」
肩に止まっていた金璽鳥が音もなく飛び立つ。
「私が取りたかったのに…」
「危ないから止めておきなさい」
兄は苦笑して妹の頭を撫でる。すぐに金璽鳥は幾つかの果実を運んで来た。兄は供の者にも分け与え、残った実を2つに割る。
「ほら、お食べ」
しかし、妹は受け取らない…兄は首を傾げる。果物や甘い物は大好物の筈なのに…
「だって兄様、喉が渇いているでしょう?私が食べたら兄様の分が…」
その言葉に兄は破顔する。
「大丈夫、ちゃんと飲み物はあるから…それよりお前の方こそ…ずっと走って来たのだろう?」
妹は顔を赤らめ、こくんと頷いた。
「なら尚の事…気にせずお食べ」
「ありがとう、兄様」
ようやく受け取り、おずおずと小さな口元に果実を運ぶ。一口噛り、満面の笑みで兄を振り返る。
「兄様、美味しいね!」

「長、早く戻りませんと皆が心配致します…」
供の者が促す。
「そうだな…余り遅くはなれんな」
兄はまだ食べている妹を抱き上げ、里に向かって歩き出す。
「兄様、自分で歩きます」
慌てて妹が口に果物を押し込む。
「ああ、汚れているぞ?」
兄は笑って妹の口を拭いてやる。が、いっこうに降ろす気配がない。
「兄様…重いでしょ?」
「ん?そうだな、少し重たくなったな」
兄がふっと微笑む。
「降りますっ!」
わたわたと妹は降りようとするが、兄は放さない。
「お前の体重位で根を上げる程、私は非力ではないぞ?成長したと言う意味だ」
兄は笑って妹を抱き締める。
「最近は余り会えなかったからな…留守の間、友は出来たか?」
妹は申し訳なさそうにうつむくと、ゆっくり首を振る…
「…誰も遊んでくれないの…皆、私を見ると逃げてくの…兄様…私、化け物なの?」
大きな瞳が涙で潤む…
「それは違う…それにお前が化け物なら、兄の私も同じ化け物だ」
その言葉に傍らの者達が慌てる。
「そんな!長が化け物などと…!」
「そうです!兄様は一族の長ですもの」
兄はそんな慌てる供をちらりと見やる…
「なら、私の妹も…そうだな?」
「…はい…」
兄は頷くと妹に笑い掛ける。
「さあ、帰ろう。そうだ、明日また果物でも取りに行こう」
その言葉に妹は満面の笑みで兄に抱き付いた。
「はい!兄様」
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ