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□とりあえず、ね?
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優灯さまへ





減ることはないくせに芋づる式に増えていくライバル達を蹴散らして、数年も暖め続けていた恋をなんとか実らせたというのに、なんだかあまり幸せだと感じられないのはどうしてだろう。今日もルーシィとハッピーと一緒にいる恋人の姿にため息が出る。


「これはどうだ?北の魔物退治!」
「絶対いやよ!」
「えー」
「ルーシィはわがままだね」
「私、まだ死にたくないの」


どのクエストに行こうかと二人と一匹で話すのはいつものことだ。ちなみに他の連中と違って彼女はナツを恋愛対象として見ていないが、それでもやはり恋人としては面白くない光景である。ハッピーなんてグレイがナツと付き合っていると知っているくせにデートにまでついて来るのだ。今も桜色の上に乗っている青い塊に「あの性悪猫め…!」と、心の中で口悪く罵りながらグレイはナツへと近づいた。


「おいナツ!」
「あ、グレイ」
「なんの用だよ」
「あー…一緒にクエスト行くぞ」
「嫌だ」
「な…っ」
「もうハッピーとルーシィと行くって決めたんだよ」


そう言うとナツは不機嫌そうな表情でついっと顔を背けた。間違っても恋人に対する態度ではないと思う。謀らずとも震えるグレイの口の端を見て、ルーシィとハッピーは苦笑いを零した。これは流石に不憫でしかたがないと言うように、いつも邪魔をする青い猫は少しだけ幸せを運んでやることにした。


「おいら、ルーシィとエルザと行ってくるからナツはグレイと行ったらいいよ」
「ハッピー!?」
「ルーシィ行こー」
「はいはーい!じゃあ二人とも仲良くね!」
「ルーシィまで…!」


一人と一匹はひらひらと手を振ってエルザの元へ去ってしまった。人生の中で一番ありがたい気遣いだと、グレイはナツに視線を戻す。どうせなら宿泊する必要があるクエストをやりたいなんて邪な考えを読み取ったのか、ナツの瞳がグレイを捉えることはなかった。喧嘩仲間というカテゴリーに長らく分類されてしまっていたから、多少喧嘩腰になったりするのはしかたがないことだと自身に言い聞かせてきたのだが、こればかりは頭にきた。散々恋人の自分を放っておいて他人とばかり仲良く姿は、嫉妬どころか軽く殺意さえ覚える。


「ナツさんよォ…そんなに俺と一緒は嫌か?」
「べ、別に嫌ってわけじゃ…!」
「……え?」


ぱっと頬に桃色を散らして、ナツが潤んだ目で睨んできた。当たり前とかなんとかという言葉が返ってくるんだと思っていたので、予想もしていない言動がグレイをもろに直撃する。可愛い。その頭の中では教会の鐘がリンゴンと祝福の調べを奏でていたり。そんな、そのままゴールインしかけるグレイの妄想を尻目にナツはわたわたと話しはじめた。


「おっ、俺だってグレイと一緒に行けるなら…嬉しいし…!」
「……ほ、本当か?」
「嘘じゃねえよ…ただ、その…」


最後の言葉はごにょごにょと小さな声になって、口の中で掻き消された。そこが一番重要な気がする。持ち前の勘の鋭さで何かを受信したグレイは、ゆっくりとナツの肩に手をやって退路を絶つ。結構恥ずかしがり屋な彼のことだから、聞き出そうとすればするほど脱兎の如く早さで逃げてしまうに違いない。ぎゅっと見た目よりも細い双肩を抱いてグレイは真剣な声を出す。


「なあ、もう一回言ってくれ」
「う…絶対やだ!」
「頼む……なあ、ナツ」
「〜〜〜〜っ!!!」


頑なに首を振るナツの耳元でわざと低く囁けば、彼は勢いよく身体全体に朱色を走らせた。そして口をぱくぱく開閉させて、視線をいろんなところにさ迷わせる。ここで無理矢理顔を自分に向けてもよかったのだが、そうすればナツは照れと意地からしばらく口を利いてくれなくなるだろうから我慢する。数分間の根競べに負けたのは、やはりナツだった。


「……っ、くそ…」


額をグレイの肩につけて悪態を吐くが、握られた服の裾で威力は無効化されてしまった。決して抱き着いてこないところがまた可愛いと、視界の端に見える赤い首筋に息を吹きかけた。


「ひ…っ!」
「ナーツ、さっきはなんて言ったんだよ」
「うぁ!言うから息吹きかけるな!」


ばか、変態、氷野郎!と最後は関係ない言葉を叫ぶ。そんな子猫が毛を逆立てているような甘い怒りが癇に触ることはないので、グレイは言い返すでもなくただただ肩を震わせて笑った。ナツは、にまにまと笑うグレイに「顔見んなよ」と釘を刺す。


「グ、グレイが悪いんだからな…!」
「何がだ」
「お前が一緒だと、なんか恥ずかしくて…あんま調子出ねえんだよ!」


だから二人でクエストは行かないと必死に言うナツに、グレイの頬は緩みっぱなしだ。本当、どこまで可愛ければ気が済むのだろうか。きいきいと声を上げる腕の中の恋人に、グレイは笑いながらキスを落とした。とりあえず、二人きりでのデートを重ねて慣れてもらうしかない。









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嫉妬するフルバスタ〜とツンデレナツ!だったっけなあと思いながら書いたらなんかフルバスタ〜があまり嫉妬しませんでした!まあ私がやつに嫉妬させたらもれなくナツ監禁とかの暗い話になるので、ナツをツンデレさせるためにも軽度の嫉妬になったとお思いください!←












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