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薄い群青色のようなこの小さな粒をひとつ飲めば、望まなくても夢のない深い睡眠へと誘われてしまうのだから、なかなかどうして人間とは単純に出来ているものだと思う。いちにいさん、よん。手の平にちょこんと並んで座っている錠剤をしばらく突いて遊ぶけれど、すぐに飽きてぽいっと投げるように口の中へと含んでみた。うっすらとした苦味のようなものが舌に広がる。溶けるまで口に含んでいようかとも思ったが、じんわりと舌先が痺れてきた気がして、歯(と呼ぶには些か鋭すぎる)で粉々に砕いて飲み込んだ。このときばかりは、双子の弟が好んでいるミネラルウォーターがいかに大切で偉大なのかを思い知る。ざりざりと嫌な感触に顔をしかめていると、いつの間にか帰ってきていた雪男がまたかと呆れた表情をして立っていた。コンビニ帰りなのか袋を右手に持っている。


「おー、お帰り」
「ただいま兄さん…またやってるの?」


ため息とともに瓶を取られる。振っても音が鳴らないくらい群青色が詰まっていた中身も、今はからからと賑やかな音を立ててそれぞれの存在を主張していた。ラムネ菓子じゃないんだよ。少し垂れた目の代わりに、眉をきりりと吊り上げて雪男は怒る。確かに色は似ている気もするけれど、こんな苦い菓子があるわけがない。


「雪男、水くれ」
「もう…ほら」
「サンキュー」


眉間にしわを寄せながらも、袋からミネラルウォーターを出して投げてくれた。まだ口をつけていないのか、キャップを捻ればカチリと音がした。せっかく買ってきたのに先に飲むのは悪いとは思うけれど、やはり口の中の微かな苦味には変えられない。勢いよくボトルの半分まで飲むと、雪男は諦めたのか「全部飲んでいいよ」と言いながら瓶に指を入れた。そのまま乾燥剤を取り出してごみ箱に捨てて、残り僅かの群青色を手の平に落とす。


「なんだそれ?」
「ピルケース。一粒ずつ分けておくから、一日一カ所だけにしといてね」


きちんと用法・用量を正しく守ること。そう言って投げて渡されたピルケースは、群青色は一粒ずつ狭い空間に閉じ込められていて。枕元にそれを置いて曖昧に返事をしながら、空になったペットボトルを捨てて布団の中に潜り込む。


「おやすみ兄さん」
「…おー」


微笑む弟に眠たげな声を演じて目を閉じる。腹の中に沈む無数の群青色の破片は、一体いつになったら静かな夜を与えてくれるのだろうか。まだ舌先に残っている苦味だけが、その答えを知っている。












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