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□しんしん、しん
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思いのままに戦って勝って勝ち続けて、気付けば隣に立ってくれる人は誰もいなくなった。貴方こそ、君は、お前が。最初の言葉こそ違えど、会う人は口をそろえてこう言う。僕こそ、僕は、僕が頂点なのだと。須らく上に君臨する者なのだと。そうか、ならば隣に立つ人がいないのも納得がいく。だって、彼らと僕は決して視線の交わらない高さにいるのだから。だったら、まだ人が踏み込んだことのない場所にいけば、僕の隣に立ってくれる人はいるだろうか。そう思って、僕はいつだって雪深く白の世界に覆われたシロガネ山に登った。そうしてなんとか頂きにたどり着いて、けれど、やはりそこに誰かがいることはなくて。そこで漸く、僕は失望したのだ。世界は、僕をひとりぼっちにしたかったのだと。


「……………、」


びゅうびゅうと吹き荒れる雪は視界を奪う。そんな、真っ白に塗り潰される世界にぽつんと薄い翡翠色と漆黒が浮かび上がった。ポケモンだろうか。ふわふわふよふよ宙を漂うそれは、段々と近づいてくるみたいだ。その輪郭が大きくなるにつれて翡翠色と漆黒の正体がはっきりとして、僕は少しだけ驚いた。翡翠は人間だった。見たことのない漆黒のポケモンに乗っている、僕と同じくらいの歳の青年だった。一体こんなところになんの用があるのか。そんなことを思いながら一人と一匹を見ていると、不意にぐらりと青年がポケモンの背中から落ちた。


「え…」


久しぶりに声を出した気がして、なんだか違和感を覚えながらも青年に駆け寄る。彼は、雪のように白い顔をしていた。一目見ただけで具合が悪いことがわかる。大きくて黒いポケモンも、心配そうに鳴いている。とりあえず洞窟に運んだほうがいいと判断して、僕は彼の腕を掴んだ。身長は高いのに、細い。これなら多分、僕にでも抱き抱えることができるだろう。


「……君も、おいで」


夜を切り取ったような色をしたポケモンにそう言えば、彼は微かに頷いた気がした。このあと、目を覚ました翡翠色の青年がNと名乗り、僕のカビゴンに引けを取らない勢いで食糧を食べ、一緒に住むようになるのは一時間後のこと。そして、食糧を持ってきたグリーンの絶叫と怒りがシロガネ山に落ちるのは、一週間後のこと。












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