版権

□花群れの午後。
1ページ/1ページ











最近、妙に子猫丸と燐の仲が良い。


「こねこまるー!」
「あ、奥村くん。どないかしはりましたか?」
「実は………、で……」
「ああ、それやったら………」


初めの頃こそ勝呂と志摩も一緒になって会話していたのだが、二人でこそこそと何かを話している姿が何度か続くようになって、志摩がはて?と首を傾げるようになった。そうして、あからさまにと言うわけではないが、燐が子猫丸が一人になったのを見計らって話しかけるのに勝呂も頭を捻るようになって、漸く候補生達は変化に気付いたのだ。今日も燐が子猫丸の背に合わせるように少し屈んで話している。


「でも、ほんまどないしはったんやろうか…」
「……何がや」
「奥村くんどす!ほら、あない楽しそうに子猫さんとお話してはりますでしょ」
「別に奥村が誰と話そうと関係ないやろ…ええやないか、楽しゅうしとって」
「そうですけど…あああ敵は坊と奥村先生だけやと思うとったのにい!」
「敵てなんや!敵て!」


噛み付く勝呂には目もくれず、思わぬ伏兵だと喚く志摩に「バッカみたい、」と帰り際に出雲が吐き捨てた言葉が痛い。ぎゃあぎゃあと主に二人が騒いでいると、燐と子猫丸が不思議そうな顔をしてやって来た。同じ方向に首を傾げている。


「く…っ、かぁいらしい…!奥村くん、それは反則技や…!」
「えっと…志摩はどうしたんだ?」
「ただの病気や、アホっちゅう名前のな」


ダッカールで前髪を止め、まろい額をあらわにしている燐にやられたのか、ばしばしと机を叩いて悶える志摩に皆が少し引いている。これを見るたびに勝呂は講義も終わったんだから取れと燐に言いたくなるが、自分が上げたものをいつも使ってあるのを見ると悪い気はしないので結局言わず終いだ。まあ、似合ってるし可愛いので言わないのが本音だろうが。とりあえずまだ悶えている志摩の背中を叩いておく。


「痛ァ!?ちょ、何しはりますの坊!」
「お前はいちいちうっさいんや」
「やからって叩かんでもええでしょ…!そういうんがドメスティックバイオレンスに繋がるんどすえー!」
「気持ち悪いこと言うなや!」
「ぎゃっ!また叩きはったー!奥村くん見てはりました!?助けたって!」
「今のは志摩が悪いと思うぜ」
「志摩さんが気持ち悪いんはいつものことですよ、坊」


はい落ち着いて、とやんわりとした子猫丸の言葉に勝呂は呼吸を整える。志摩がまだ何かを言っているが聞こえない振りだ。この手の人間は構えば構うほど煩くなる。特に志摩は長年の付き合いなので、殊更その煩さが際立つのだ。さすが末っ子。今度はいじけて机にあごを乗せるピンク頭を横目に、勝呂はため息混じりに燐に話しかけた。


「最近、二人して何を話しよるんや」
「え?ああ、こねこまるって猫好きだろ?」
「おん」
「だからクロが喜びそうな遊びとか知らないか聞いてたんだ」
「それで、今度遊ばせてもろうてもええか聞いてたんです」


なあ、と顔を見合わせて笑う二人に目眩がした。どうやら猫について意気投合したようで、ああだこうだと楽しそうに目の前で話し出す。ふわふわと周りに花が飛んでいる気がするのは目の錯覚か。普段は欝陶しく感じる魍魎の方がまだましである。ぐっと眉間にしわを寄せて和やかな雰囲気を耐える。誰かが悪いわけではない。強いて言うなら軽々しく話を振った自分だ。


「勝呂も来るか?」
「はあ?」
「いや、今からこねこまるが部屋に遊びに来るから…ガンつけんなよ」


怖い、と言外に言われて少しへこむ。自分の柄が良くないのは確かだが、人に指摘されるとやはり落ち込む。


「すまん…あー、せやな。邪魔さしてもらうわ」
「おう!じゃあ行こうぜ」
「ちょい待ち!俺も誘ってぇな!」
「え?志摩は言わなくてもついて来るだろー」
「おっ奥村くん…!」


お前のことはわかってる的な台詞に感極まったようで、志摩は勢いよく燐に抱き着いた。普段ならなんともないのだろうが、いかんせん不意を突かれたのか身体が前のめりにぐらぁと傾く。目の前で倒れられたらかなわないと、勝呂は慌てて燐を前から抱き支えた。自然と触れる肩が細いと思ったのは秘密だ。前には勝呂、背中には志摩とサンドイッチ状態の燐は離れろと喚く。しかし、さながら飼い主に懐く犬のようにぎゅうぎゅうと志摩が抱き着いているので中々身動きが取れないでいた。二人の体重はほとんど勝呂にかかっているのである。三人の横で子猫丸がおろおろしている。


「志摩てめえ早く退け!」
「いやあ、奥村くんて案外細っこいんやねえ」
「どっ、どどどどこ触ってるんだバカ…!」
「あ、関西のもんにバカはあきまへんえ。ちなみに触ってんのは腰やでー」
「あかんのはお前のとろけ腐った脳みそや!はよ離れんかい!」
「そないなこと言うて、坊かて奥村くんの腰、触りたいんでっしゃろ」
「なん…っ!」
「志摩さん、ええ加減にしてください」


そう言って反省の色もなく笑顔で燐の腰を触りまくる志摩に、とうとう子猫丸のお叱りの言葉が飛んだ。べりっと音がするかと思うくらいの勢いで背中から剥がされ、その場に正座をさせられる。流れるような動きはまるでプロみたいだ。あまりにも突然の出来事に固まる燐と勝呂は、今の格好が抱き合ったままだということにはまだ気付かないようで。おそらく、それよりも途中ところどころでエロ魔神だのなんだのと聞こえるのを、気のせいだと思いたいのだろう。志摩が燐の部屋に入れるかどうかは、子猫丸の采配で決まる。












[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ