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□上手なため息をする人
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もうちょっと素直になればいいのに。ルーシィはため息を吐いた。目に映るのは、今日も喧嘩している二人の仲間だ。あと少しだけ、素直になれば。ルーシィはため息を吐く。視線の先にいるのは、いつだってナツにつっかかる上半身裸の変態。そう、全部グレイのせいだ。こうやって一人カウンターに座るのも、ため息を吐いて二人を見るのも。


「だからテメーはわかりやすい罠に引っかかるんだよ、このクソ炎!」
「んだと…!お前だって引っかかったくせに!変態氷野郎!」
「おまっ、俺より一個悪口多いじゃねえか!」


あからさまに好きなくせに照れてるのか元がそうなのか、今だって本当は心配して言ってるのに悪態ばかりが耳につく。自分の気持ちを柔らかい言葉に変えて伝えたのなら、ナツだってあんなに怒ったりしないはずなのに。ほら、また心の中では落ち込んでる。


「………はあ」


馬鹿みたいだ。悪口には悪口が返ってくるとわかっているはずなのに、どうしようもなくてついつい口が悪くなるグレイも。思わず感情のままに言い返して、相手を傷付けてしまったとあとで後悔するナツも。素直になればいいのに。


「どうしたの、ルーシィ?変なものでも食べた?」
「相変わらず失礼な猫ね……違うわよ」
「じゃあなんでぼーっとしてるの?」
「本人達が無自覚なのに周りには丸わかりって、どうなのかしらと思って…」


ちらりと目で二人を指せば、ハッピーも気付いたようでああと頷く。その顔にはどこかうんざりしているものが浮かんでいて、ルーシィは「あんたも苦労してるのね」と口にした。自分よりもナツと一緒でギルドにいる時間が長い彼にしてみれば、あの二人の毎日の喧嘩は見慣れたものだろうに、こうも疲れきった表情をしているのだ。もしもこれが自分だったら間違いなくキレている。大好きなナツには従順なハッピーだからこそ耐えていられるのだろう。


「グレイもさー、早く告っちゃえばいいのにね」
「そうなのよ。あれは痴話喧嘩にしか見えないわ」
「あい…」


そうして、言い争いが一段落した二人を睨む。ルーシィとハッピーにじとっとした目で見られていることに気付いたのか、きちんと服を着てグレイがやって来た。その表情はどこか暗い。やっぱりへこんでいるらしい。離れた場所ではナツがちらちらとこちらの様子を伺っている。子供か。男って馬鹿よねえ、なんて思いを込め、ルーシィはハッピーと素早くアイコンタクトを取った。ルーシィの思いを正しく読み取った猫は、こくりと頷いてナツの元へ飛んでいった。


「で?グレイは今日もナツに喧嘩を売っちゃって落ち込んでるわけね」
「別に落ち込んでなんかねえ……」
「はいはい、そんな覇気がない声で言われても説得力ないから」
「………はあ、なんで上手くいかねえんだ」


がしがしと頭をかいて唸るグレイに、苦笑いがこぼれ落ちる。自分が悪いとは思ってもいないようだ。本当、救いようがない。妖精の尻尾の男達は皆そうなのだろうか、なんて思いながらルーシィはグレイの肩を叩く。ちらり、視界の端ではハッピーが同じようにナツを突いていた。


「なんだよ……」
「…はあ……グレイ、あんたにいいこと教えてあげる」
「はあ?」


訝しげに眉を寄せるグレイ越しに、ルーシィはハッピーに強く頷いてみせた。ハッピーもまた、強くゆっくりと頷く。毎日毎日、傍から見ればいちゃついているようにしか見えない喧嘩に終止符を。もう、いい加減うんざりしているのだから。


「あのね………」


内緒話の要領で一人と一匹は目の前の人物に耳打ちしながら、互いに微笑みを交わす。さて、金髪の女神にも似た少女と青い鳥ならぬ猫は、素直になれない二人に幸せを運ぶことが出来ただろうか。












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