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「俺も一目惚れだなんてよ、今更こっ恥ずかしいもんをするとは思わなかったんだぜ?まあ、恋だ愛だなんざ吐き気がするくらい経験してきたし、キス以上のことを知らないほどガキでもねえしな。でもよォ、衝撃的な出会いっつうか…やっぱ運命ってあるんだよな。あいつの声を聞いた瞬間、俺はまるで降りしきる豪雨の中心で雷を浴びたような気がした…そう、俺の中で何かが生まれたんだ。燃え滾る炎のような、新緑の薫る風のような気持ちが。それをあえて名付けるなら愛だろうな。だってそれ以上、表現出来る言葉が地球上に存在しねえんだから。まあ、俺もまだまだ本当の恋ってやつを知らないケツの青いガキだったわけだ」

「………とりあえず、お前とナツはまだ出会ってないからな」


久しぶりに部屋から出て来て顔を合わせたかと思えば、挨拶もなくわけのわからない(正確には理解したくない)言葉をつらつらと並べ立てるグレイに、リオンはなんとかそれだけ返してため息を吐いた。いろいろと突っ込むところが満載である。しかし、前々から馬鹿で変態だとは知っていたが、こうも症状が悪化しているとは思わなかった。仕事に託けて現実から目を背けていた自分に対する罰だろうか。だとしたらもう少しマシなものにしてほしかった。


「マジなっちゃん天使、ああああ合体してえ…!」


見覚えのある人物がでかでかと印刷されたポスターに頬擦りしている義兄弟にどん引く。ハアハア言っているのなんて聞こえない。何かの呪詛か幻聴だと思い込みながら、リオンはひとまずこうなってしまった経緯にでも思いを馳せることにした。間違っても現実逃避ではない、はず。今でも鮮明に覚えている。確か、あれは数ヶ月前の日曜日。春の日差しで少し暖かくなって来ただなんて、平和なことを感じていた朝のこと――――……。



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今日はゆっくり休んでください。マネージャーが携帯越しにそう言ったのは、まだリオンが寝起きの緩い思考の中にいる時間帯だった。芸能界に足を踏み入れて、漸く仕事が波に乗ってきた矢先に急な休みが入るなんて。何かあるのだろうかと思いながら、すっかり冴えてしまった目を瞬かせてベッドから抜け出す。思えば、これが今日から始まる地獄のような日々の幕開けを告げる、不吉な予兆だったのだろう。


「…………なんだ?」


ぼんやりと洗面台に向かっている途中、リビングから何やら物音が聞こえてきた。この家に住んでいるのは自分を含めて三人で、しかも一人は数日前から私用で出掛けて帰って来ていないので、消去法からグレイがいることはわかっている。しかし、こんなにも朝早くから彼が起きていることなんてあっただろうか。不思議に思って、リオンはちょっとだけ顔を覗かせてみた。それが悲劇の始まりとも知らずに。


「うおおおお結婚してくれなっちゃあああああん!!!!」


テレビの前に仁王立ちしたグレイが、目に有害な色をした法被を着込んで耳慣れない言葉を叫んでいた。法被はこれでもかと言うほどハートが乱舞している柄で、なんだか良くわからないが誰かの名前が刺繍してある。それを素肌の上に羽織っていた。え、何それちょう怖いんですけど。元々が変態気質だった彼ではあるが、こんな、人間としての尊厳を失う格好はしないはずだと記憶しているリオンは、声も出せずに我が目を疑っていた。その間もグレイは自動でヒートアップしている。


「やっべえ八重歯ちょう萌ゆす!しかも髪が桜色で自毛って…全身桜色って解釈でおk?ああああ笑顔とかまじ天使まじテポドンまじ俺の嫁!俺の息子もまじテポドン!なっちゃんの今後の活躍にwktkwktk!」


良くわからないがこれ以上は流石に止めないとやばい。本能で悟ったリオンは、とりあえず一番近くに置いてあった灰皿を投げる。それは見事に後頭部にヒットして、グレイをフローリングに沈めることで言動を止めることに成功した。それだけでもう人類の危機を救ったような気になったのだが、やけに復活が早いグレイがこちらを向いたことによって消え去ってしまう。


「てめえリオン何しやがる!」
「それはこっちの台詞だ…朝っぱらから何をしている!」
「なっちゃんを愛でているんですけど何か問題でも?」


ありかなしかで言ったら間違いなく大ありだ。というかどうして頭からじゃなく鼻から血を垂れ流しているんだお前。とにかくなっちゃんとは誰か、得体の知れないものを見る目でグレイに聞いてみると、奴は急に笑顔になった。そして、まるで機関銃か何かになったかのような口調で話し出した。


「芸能人のくせに知らねーのかよ。なっちゃんは今を風靡しているMGN49というアイドルグループに所属しているトップアイドルだぜ!桜色の髪に猫目という可愛らしい顔立ちにスレンダーなスタイル、そして元気で明るくちょっと天然なためばかわいいキャラとして世間に知れ渡っている!ちょっとハスキーが声もまたイイとコアで熱狂的なファンが多く、CDのジャケットやポジションで必ずセンターを勝ち取る売れっ子アイドルだ!あと俺の天使兼俺の嫁!」
「大半はわからなかったが、お前がそのなっちゃんのコアで熱狂的なファンだと言うことはわかった」


あと自分と同じ芸能人だと言うことも。八割がた聞き流した話の中でリオンがわかったことを伝えれば、グレイは満足そうに頷くと「じゃあ俺忙しいからもう話かけんな」と言い、さっさとテレビの前へ戻っていった。ところどころ、ハアハアと荒い息でなっちゃん…!だとか声にならない叫びを上げている。ここまで来たなら言わない方が失礼だろうかと、リオンは静かに気持ち悪いと呟いた。ついでに、もう一言だけ言葉を付け加える。


「頼むから、自分の部屋で見てくれ…!」


彼が熱烈な視線を送るテレビには、桜色の髪をしたかの人物が笑顔で飲料をアピールしているCMが、何度も何度も流れていた。







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3Tのトヲルさまから設定を借りてもよいと許可を頂いたので書きました。本当はなっちゃんも出したかったけど、グレイを絡ませるととんでもないことになる予感がしたのでリオンさまの苦労話にしてみました。グレイ気持ち悪い^^←












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