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□シュガーバターの不在
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柚子さまへ





どう足掻いたって女の子にはなれないくせに、顔を合わせたら喧嘩ばかり。素直じゃないなんて自分が一番知ってるよ。ああ、何か可愛い言葉のひとつでも言えたのなら、もっと好きになってもらえるのだろうか。





「おいナツ…」
「なんだよ変態、話しかけんな!」


久々にハッピーと二人でクエストにでも行こうかと思って、リクエストボードの前でうんうんと首を捻って悩んでいると、背後から聞き慣れた声がナツの名前を呼ぶ。どきり。意識せずとも背筋が伸びて、なんだかそれが酷く恥ずかしいことのように感じて、ナツは振り向きざまに思わず悪態を吐いた。


「変態って…お前なあ!今は服着てるだろうが!」
「う、っるせー!大体服着てんのが普通なんだよ!」


八重歯を剥き出しにそう噛みつくと、グレイはため息混じりに「へーへー、すいませんね」と呟くとミラジェーンのところへ行ってしまう。いつもなら倍にして嫌味のひとつやふたつ、言い返してくるはずなのに。自分よりも少しだけ大きな背中が遠退くのを見送って、ナツはがくりと肩を落とした。


「はあ…」


ああ、やってしまった。本当は話しかけてくれて嬉しかったし、良かったら一緒にクエストをしないか誘ってみたかったのに。頭をかいてボードの前から退く。いっそのこと、ルーシィでも誘おうか。彼女のことだからついでにグレイに声をかけてくれるだろう。そう思って、ナツは相棒と話している長いブロンドへと近づいた。


「あ、ナツ!どのクエストにするか決まったの?」
「うーん…まだだ。ごめんなハッピー」
「気にしていないよ」


いつもと様子がなんとなく違うと感じたのか、ハッピーは笑顔でナツの頭に乗る。そして慰めるように小さな肉球で額を撫でた。ルーシィもここは長い付き合いの猫に倣って、珍しく静かな声でナツに話しかける。


「ナツ、良かったら私のクエストについて来てくれない?」
「ルーシィの?」
「えー、ルーシィが一緒で大丈夫なのー?」
「それってどういう意味なのかしら…?」
「だってルーシィ弱いんだもん」
「もう、ホント失礼な猫ね!あ、じゃあグレイも誘おうよ!」
「え…あっ、ちょ…ルーシィ…!」


グレーイ!と声を張るルーシィをナツは慌てて止めようとする。だって、こんな他人に頼るような回りくどくてうじうじとしたやり方なんて、直球勝負が持ち味でデッドボールが得意な自分とは思えない。やはり一緒に行きたいのなら自身の口から言わなければ。しかし、ナツが止める前にグレイはルーシィの声を聞きつけてやって来てしまった。


「何か用か?」
「私達と一緒にクエストに行かない?」
「あー…そうだな、」
「……なんだよ」


不意にグレイに見つめられて、ナツは思わず不機嫌そうな声を出してしまう。天の邪鬼な自分の態度にいい加減涙が出そうだ。そんなナツの心情を知ってか知らずか、グレイはしばらく考え込むようなそぶりを見せて、ゆっくりと首を横に振った。


「いや、止めとくわ」
「ええっ?なんで?」
「…どっかの誰かさんは、俺と一緒が嫌みたいなんでな」


何か別のクエストを探すよ。そう言ってグレイはナツを一瞥し、ボードの方へと去ってしまった。明らかに避けられた。今までにない態度を取られてナツは心から落ち込む。嫌われてしまったのだろうか。


「…ナツ、グレイと喧嘩中なの?」
「違う、と思う…」
「何よーもう、はっきりしないわね!」


さっさと謝ってきたらどうなのと言わんばかりに、ルーシィは頭の上に乗っていたハッピーを取り上げるとナツの背を押す。驚いて相棒を見れば、彼もまた同意見らしくこくこくと頷いていた。どうやら早くグレイのところへ行ってこいと言いたいらしい。しかし、そんな二人の行動に少々戸惑い気味のナツは、その場にただ立っているだけだ。仕方がないなあと、ルーシィはナツに近づいてこっそりと囁いた。


「グレイはああ言ってるけどね、さっきからナツのことばっかり見てるのよ」
「…え?」
「きっとナツと二人でクエストに行きたいんだよ」
「……はあ?」


不純だねーと笑うハッピーにつられて後ろを見れば、ばっちりグレイと目が合った。なんとも言えない気持ちになって、ナツはすぐにルーシィの方を見た。けれど、彼女も二人が心配なのか「私ならハッピーと行くから平気よ」とお節介を焼く。ハッピーもハッピーで笑顔で手を振るものだから、ナツはいたたまれなさでいても立ってもいられなくなり。


「〜〜〜っいってくる…!」


吐き捨てるようにそう言うと、逃げるようにグレイの元へと駆けていった。態度とは裏腹に、その声が喜びを含んでいることに気づくのはいつだろうか。耳の先まで真っ赤になっているのを見ながら、ルーシィはハッピーと顔を見合わせる。そして、くすりと笑みを零して一言。


「「二人とも、素直じゃないんだから…」」


不器用で計算高い彼と照れ屋で天の邪鬼な彼が、早く仲良くクエストに行けますように。並んでリクエストボードを見ている二人の背中を見て、切実にそう願った。







シュガーバターの不在







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リクエストに沿えていない上にあんまり変態じゃないフルバスタ〜を書くのにちょっと抵抗がありましたすみません!でも受け取って下さるなら嬉しいです^^ 返品はいつでもウェルカムだから!
補足しても良いなら、とりあえずこのフルバスタ〜はナツが自分のことを誘いたくてうずうずしていることをお見通ししています。わざと素っ気ない態度取ってるんだよやだ変態!←












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